お兄ちゃんの花嫁

「あくたくんにこれあげる!」
「四季ちゃん、オレにくれんの?」
「うん!にいにとおなじブレスレット!」
 かっわいいでしょ~と上機嫌にオレンジ色のブレスレットを差し出す四季。
 最近、四季のお気に入りは五十竹だ。
 あの日、泊まりに来てから五十竹に懐いていて、家に帰れば『にいに、あくたくんこないの?』と聞かれたりする。
 これが他の男なら多分、ヤキモチを焼いたりするのかもしれない、けど、
 五十竹なら話は別。


 だって……五十竹と俺は……その、付き合ってるんだから……。


 つい先日、思いが通じ合って、自分達は恋人同士になった。
 そのことがすごく幸せで、まるで世界中が毎日新しい絵の具で塗られていくような気持ちになる。


「ねっ、つけてみて!」
「こう?」
「わぁ、にあう!」


 キャッキャと恋人とかわいい妹が仲良くする姿を見る。
 なんて嬉しい事だろう。
 そんな暢気に考えてたら―――

「ねぇ、ねぇ、あくたくん!」
「うん?」
「しきね、あくたくんのこと、にいにとおなじくらいだいすき!」
「ホント?えへへ……そいつは光栄つかまつり放題、なーんちて」
「なーに、それ?おもしろーい!」
 なんだろう、なんだか嫌な予感が……
「うん、だからね!」
「うん?」


「しき、あくたくんのおよめさんになってあげる!」  


「……え?」
「なっ……」
「ね、にいに、あくたくんならいいでしょー?」
 そう可愛らしく首を傾げる妹。
 かわいい……ではなく、四季が五十竹と結婚する…?

『季肋、悪い、四季ちゃんと結婚するから、わかれよう』
『にいに、いままでありがとう』


 四季をお嫁に出したくないし、
 大事な妹であっても好きな人を奪われたくない。
 だって、五十竹は……俺の、


「ね、あくたくん、いいでしょ?」
「えーっと……」
 五十竹、すごい困ってる…。
 でも、誤魔化さないでいるところを見ると、五十竹も同じ気持ち……?


「……四季、五十竹はダメだ……」
「えー、なんで?にいに?」
「……五十竹は……兄ちゃんのお嫁さんになるから……」
「っ……」
 そういうと、五十竹がびっくりした顔をして、でも嬉しそうな顔をすぐにしてくれる。
「……」
 四季もぽかんとした顔をして、でもすぐその後、
「なーんだ、それじゃあしょうがないね!」
 と言った。
「うん……しょうがない」
「そっかぁ……あくたくん」
「四季ちゃん?どったの?」
「それじゃあ、あくたくんもしきのにいにね!」
「あ……」
「やくそくだよ!」
 そう五十竹の小指に自分の小指を絡めて、四季は嬉しそうにしていた。


 それから、寮への帰り道で、 「オレ、季肋のお嫁さんにされちまうんだ?」
 と恥ずかしがりながら、五十竹にからかわれたのは、別のお話。