crank in!

 もうこれは、このままゴーーーーーーールインするしかない!と放課後思った
 だって、キスしたし!キスしたし!キスしたし!  
 
 
 そう、五十竹あく太は有頂天だったのである。  
 

 この場合、自分が上?自分が下?
 え、ええええ、ええっちに必要なものってなんだっけ?
 など、若さ故の暴走で走りきる。
 ドラックストアに行き、少ない小遣いで必要なものを手にして、誰にもバレないうちにそっと隠す。
 七基が出かけてる時に
『季肋……したい……』
 ときっと言えば、季肋も自分が好きなのだ。
 キスをするくらい好きなんだから、きっと
『五十竹……』
 って名前を呼んでくれて、自分を抱きしめてくれるに違いない!
『……ん、好きだ……』
『季肋……』
 そのまま、キスして、それから、それから、


「うっ……」
 そこまで妄想して、あく太は鼻血が溢れ出た。
「でへへへへへへ」
 どうしようどうしようどうしよう。
 あく太は喜ぶの余り、ベッドでゴロゴロと何度も左右に寝返りを打つ。
 きっと、今、自分は世界で一番幸せだ。
 だって、世界一一番好きな人とキスしたのだから。
 キスって凄い。
 恋って凄い。
 こんなに、幸せなことがあるんだ、とあく太は喜びを噛みしめる。
 季肋を好きなだけで幸せで、好きになって貰えるだけで幸せで、もうこれ以上ないほど幸せなのに、もっと、もっとがあるだなんてあく太は嬉しくて嬉しくてたまらない。  


「ただいま~」
「ただいま……」
「っ!おっかえりぃ!季肋、七基!」
 2人の声に慌てて下に降りるあく太に七基は笑いかけてくれる。
 そして、季肋は――――――


  「……きろ」
「……」


 え?
 名前を呼ぼうとした瞬間、目線を逸らされてあく太は固まる。
 いやいやいやいやいや、きっと、気付かなかっただけ!
「お、俺……飲み物取ってくる……」
「あ、じゃあオレも、」
「ううん、みんなの分持ってくる……斜木は?」
「じゃあ、お願いしようかな」
「うん……」
「……」
 そう言って去って行く季肋の背中にあく太は呆然する。  
 
 
 季肋に、避けられている。  
 

「……」
 その事実に、体中が冷えていくのが解った。
 なんで?
 だって、キスしたじゃん。
 キスして、抱き合ったのに?
 なんで……?
 

 そう考えて、ぐるぐると思考はネガティブな方向へと向かっていく。  


『芥』


 違う
 違う違う
 違う違う違う
 違う違う違う違う
 違う違う違う違う違う、
 違う、違う、季肋は、季肋は、オレのこと、芥だなんて思わない。
 だって言ってくれた!
 言ってくれた!!
 
『五十竹、俺は、忘れなくても、嫌いにならない』


 そう、言ってくれたのに、なのに、どうして?
 大事って言ってくれたのに、どうして?  


 どうして、逃げるんだろう。  


「……」
「あ、あく太?!」


 頭の中が楽しい事だけ考えろとあく太に言う。
 でも、駄目だ。
 季肋と、
 季肋と約束した。飛ばないって。
 季肋から逃げないと。  


 だったら―――――
 季肋と話さないといけない。  
 
 
 そう思ったけれど、2人だけの時間というのは、なかなか得られなかった。
 まず、七基や宗氏、潮がいる時に話す事は出来ないし、5人は大体一緒だった。
 だから、季肋と話し合いたくても無理だった。
 次に、朝班が帰ってきた事だ。
 礼光と練牙によるフィーチャーツアーは思っていた以上に忙しく、何故か警備の人間も多数整備された。
 練牙がモデルであり、芸能人であるから念のため、と言われて納得はしたものの、同時にとにかく来客人数がいつも以上に多い事が予想された。
 朝班だけではなく、昼班、夕班、夜班も総動員で手伝いをした。
 特にアートに関しては季肋が、新曲や会場内のBGMには七基が、そしてあく太も展示物で説明などの映像で力を貸した。
 勿論、飲み物や軽食には潮や、夜班の夜鷹。
 それだけじゃなく当日の案内は夕班が行うのだから実に豪勢だ。
 他の時も別の班が手伝う事はそれなりにあったが、今回はスケールが非常に大きかった。
 礼光が考えた、ご縁を結ぶアートは大人気の大混雑で、中には客が突き飛ばされたり、転げていた。  


「……ほら、早く行かないとライブに遅れちゃうよ!」
「重大発表ってなんだろうね?」
「練牙のことだから、変なことじゃないといいけど……」


 そう言って去って行く客を見たあと、アートを見た。
「……」
 徐々に人は少なくなっていって、おもてなしライブを見ようとしているのだろう。
 幾つもの紐が結ばれていて、その中には2人で一つの紐を結んでいる人も見かけた。
 カップルで、一つの紐を結びきりすれば、その縁は一生消えない、と誰かが言っているのを聞いた。  


「……季肋」


 ぽつりと呟くが相手はここにいない。
 四季が来るから、一緒に回るのだと言っていた。
 だから、紐を結ぶ事が出来なかった。  


「……」


 行かなきゃ。
 おもてなしライブを見に行かなきゃ、とあく太は思う。
 平日でずっとツアーを見に来れなかった昼班が、おもてなしライブを見れるのはこれが最初で最後。
 だから、ちゃんと、自分達の次の時の為に勉強しなければならないということくらいあく太には解っていた。
 でも、脚は動かない。
 

 なんで、  


 そう自分に問う。  


 季肋から逃げない。
 こっから逃げ出さない。
 飛ばない、と決めたのに、楽しい事だけ考えてしまいたい。
 駄目だ、と思っていたのに、ウル太はここにはいない。
 

「五十竹!」
「……」


 どうしようと思っている時だった。
 ずっと求めていた声が聞こえたのは。
「季肋……」
「いそ、たけ……」
「……あ、し、四季ちゃんは?姫ちゃんも来てて一緒に回るんだろ?」
 どうしたんだよ、と笑おうとすると、季肋の顔がくしゃりと歪んだ。
「……」
 あれ?何か間違えた?とあく太は考える。
「……」
 腕を見れば、季肋があく太の腕を掴んでいた。
 あの時のように。
「……」
「……あ、あの……」
「……」
 季肋の顔を見た。
 10日間ぶりくらいだろうか。
 こんな真っ直ぐに見つめたのは。
「……」
 そんなに自分達は、2人の時間を持てていなかったのだ。そう思うと悲しくて、辛くて、でも、たったそれだけで嬉しくてたまらなくて心臓が高鳴る。
 季肋はあく太の気持ちを知っては知らずか口を開けては閉じ、そしてまた開ける、を繰り返す。


「あ、あの……」
「お、おう……」


 何を言われるんだろう。
 そう思っていると、季肋はあく太から目をそらした。
 ああ、またか、と思っていると――――  


「……こ、これ……」
「……」
「……い、一緒に、結ばない、か……」
「……」
 そう言って、季肋がご縁アートの紐を手にした。
「……っ」
 その言葉に、あく太は嬉しくて、頷いた。
 

 季肋の紐と、あく太の紐を、固く、固く結ぶ。
 蝶々結びじゃなく、ほどけない結び方で。  


「……」
「し……四季ちゃんは……?」
「姫ちゃんと一緒にいる……輝矢と久楽間が見ててくれて……」
「そっか……」
「うん……」


 2人で話すのは久しぶりで、久しぶりすぎて、あく太は涙が零れそうになった。
「ごめん……」
「……んァ?」
「……五十竹のこと、避けてた……」
「……っ」
「別れるって言われたら、恐くて……」
「…………」
「…………」
「…………はい?」


 いや、なんで?
 別れる?  


「What's?」
「五十竹……それを言うなら、why?だ……」
「いやいやそうじゃなくて、別れたかったの、季肋じゃねえの?」
「え……」
「き、キスした後、目逸らすようになったし」
「そ、それは……」


   大丈夫。
 楽しい話ばかりじゃないと解っていても、季肋からは逃げないと、
 季肋は自分を嫌わないと知っているのだから。
「母親にも、棄てられるような人間だから……」
「っ」
「季肋も、嫌になったのかって……」
「そんなことない!」
「……っ」
「お、俺は、五十竹のこと……嫌いになったり、しない……」
「……」
 そう言って、あく太のことを強く季肋が抱きしめた。
「……季肋」
「むしろ、……逆、だ……」
「逆ぅ?」
 どういうことだ?と首を傾げると、季肋の口がゆっくりと開く。
 

「……五十竹のこと、好きすぎて」
「……」
「自分が、恐くなった……」
「へ?」
「五十竹が……他の人、見ないようにしたくて……」
 そこまで言って、季肋は自分の恐ろしい思考にあく太に嫌われたらどうしよう、と思った。
 五十竹あく太が好きだ。
 太陽の下で輝く彼が好きだ。
 走って、前へ前へと進む彼が好きだ。
 笑う顔も、
 怒った顔も、
 楽しい顔も、
 泣いた顔は、見たくないけど、その涙すら綺麗だと思う。
 全部、全部好きだ。
 髪の毛の先から、爪先まで、全部好きで、―――――自分だけの、五十竹あく太になって欲しいなんて、そんな、そんなの、余りにも、
「……オレ」
「……」
 あく太の声が震えてた。
 ああ、嫌われた。終わりだ、と思った瞬間だった。
 
 
「全部、季肋のモノになっても別にいーけどォ……」

 自分の耳を疑った。
 慌てて、体を離して、あく太の顔を見た。
「……」
 顔が真っ赤になって、そして、鼻血がまた出てる。
「……い、今なんて……」
「だ、だから……」
「……」
 駄目だ、と思った。
 嫌われたらどうしよう、五十竹に嫌われたら生きて行けない、そう思っていた。
 なのに、あく太は、季肋に、
 

「オレ、季肋のもんでいいけど、それじゃあダメ?」
「……」
「だって、季肋はオレの季肋だし……」
「……」
「嫌ァ?」
「い、嫌じゃない!」
 当たり前のように、五十竹あく太は、衣川季肋のものだ、と彼は言う。
 そして、衣川季肋も、五十竹あく太のものだ、と。  


「……い、五十竹……」
「う……うん……」


 好きだ。
 好きで、好きで、大好きで。
 その唇に触れたいと、季肋は思った。
 そっと頬に触れ、あく太の目が気付いてぎゅっと閉じた。
 そして――――――触れようとした瞬間、  



「あ……」
 あく太の携帯が鳴った。
「っ、は、はいっ!もしも」
「ちょっと、五十竹!!何してるワケ!?」
「潮ォ?どうしたん?」
「なーーーーーにが、どうしたん?なの!もうライブが始まる時間でしょ!仏像が迎えに行ったでしょ!」
「あ……」
 潮の大声で季肋もしまった、と言いたげな顔をする。
 どうやら忘れていたらしい。
「……」
「もう、早く来てよ!」
「うん、わかった!」
 そう返事をしながらも、潮のお小言は続いていた。
 あく太は気にせず電話を切り、季肋に向き直る。
「……ライブ」
「うん」
「……行こうか……」 「……うん」
 季肋がそう言って手を差し出してくれた。
「……」
 お互いに残念だ、と思ってるのが解る。
 キス、したかったな、とあく太はそれのことばかりだ。
 季肋も同じだった。  


 二度目のキスをしたかった。


  「……」


 顔を見れば、お互いに目線が合う。
 残念だけれど、今はこれだけで良かった。  


「季肋」
「うん?」
「ライブ、終わったら、しよーな!」
 耳元でそっと呟けば、季肋の顔が真っ赤に染まった。
「……う、うん……」
「……」
「ま、毎日したい……」
「っ~~~~~!」


 からかったつもりでそう返されて、あく太も顔が真っ赤になる。
 ああ、どうしよう。
 四季や美姫にからかわれたら。
 潮や宗氏にからかわれるのはいいけど、可愛い女の子2人に言われたら何と答えたらいいんだろうか。
 そんな事を考えながらライブ会場までも短い距離を2人で歩いた。  


「遅い!」
「まぁまぁ、うーちゃん。五十竹と衣川にも色々あるのだろう」
「にいに!あく太くん!こっちだよー!」
 怒る潮と宥める宗氏、ぶんぶんと手を振る四季に、隣で顔を真っ赤にしてる美姫。
「ごめんごめん、っていうか場所取ってくれてたんだ?」
「まぁ、関係者席ですし」
 季肋には聞いていなかったが七基もいた。
「……」
「季肋」
「……うん?」
「良かったね」
「……うん」
 あく太と喧嘩していたことわけじゃないが、気まずい事をきっと七基は、否、宗氏と潮も気付いてたのだろう。
 だから、電話がギリギリまで掛かってなかったんだろう、と季肋は解った。
「……」


 はじめて出来た友達とは、上手くいかなかった。
 それから、友達は出来なかった。
 寂しかったけど、悲しかったけど、
 でも、別によかった。
 また嫌われるくらいなら、それでいいと思っていた。  
 

 でも、七基に、宗氏に、潮にあって、友達になった。
 友達になれないと思った人達と友達になった

 何より、友達になって、それ以上の関係になって、全部自分にくれると言ってくれた人にあった。
 五十竹と友達になって、好きになって、告白しあって、キスして――――、
 これ以上ないほど、毎日好きになっていく。
 自分以外の誰も見て欲しくなくて、そんな自分が恐くて、あく太に嫌われるのが恐かった。  
 

 でも、それでいいと。
 自分を全部くれるとあく太は言った。
 季肋は自分のものだとあく太が言った。

 なら、それでいいのかもしれない。
 こんな自分でもいいのだ。いいんだ、と。
 
「……」

 こんなに幸せなのに。
 幸せすぎて恐いのに。
 まだ、自分達には――――『これから』があるんだろうか。
 隣でライブを見るあく太の顔を見た。
 キラキラとした目で舞台を見ていて、その目の輝きが綺麗だと思った。
 
 今日も、またあく太を好きになった。
 きっと、明日も、明後日も、10年後も、20年後もあく太のことを毎日好きになっていく。これ以上ないほどの、愛情で。
 それだけは、季肋には自信があった。  


 16歳で重すぎる初恋を手に入れた。
 でも、辛くて、悲しくて、逃げ出したくなる時が多いけれど、それでも――――好きになることを、後悔することはない。
 大事な、大事な恋だった。  


「というわけで、今回のペア研修は、僕と七基です!」
「……え」
 ペア研修にすでに選ばれたメンバー以外が会議室に集まってくじを引いた。
 嬉しそうにする可不可に対して、季肋の隣にいる七基は口をパクパクさせていた。  


 その後も研修先が発表されて、細かいところは2人話し合う事になって会議は早々に解散した。
 去って行く人達の中、あく太を除いた昼班のメンバーは様子のおかしい七基に付き合って残っていた。  


「……斜木…?」
「……あ、うん…」


 どうしたんだろう、と思いながら、七基を見たが季肋には解らない。
 潮だけは大きくため息を吐いていた。


 
「ふむ、今回も外れてしまった」
「俺はずっと当たらなくていいですけどね」
「そう言って、うーちゃんも次の研修先を気にしてワクワクしていたではないか」
「む、むーちゃん!」
「……ふふ…」
 外れたのは残念だったけれど、あく太と今は離れたくない気持ちが強まっているので丁度良かったかもしれない、と季肋は素直に思った。
 でも、七基がペア研修ということは自分とあく太だけになるのか、とふと考える。  


「え、あ、ええ……」
「衣川?」
「な、斜木がペア研修……」
「それはさっき聞いたけど?どうしたの、仏像」
「……混乱してるのか?」
 仲の良い熟年おさななじみペアに突っ込まれても季肋のあたふたとした様子は変わらない。
 どうかしたのだろうか、と2人が思っていると、


  「い、五十竹と……ふ、二人きり、だ……」
「……」
「……」
 そう言って、季肋は顔を真っ赤にさせた。
「……あ」
「ああ……」
 その言葉に2人も納得した様子だった。
「……なるほど、しかし、片思いの相手への恋を一気にすすめるのも手ではないだろうか」
「ちょっと、パンダじゃないんだから……そんな出来るわけないでしょ、仏像が…」
 そう言う2人に、季肋は「あ」と思った。
 そういえば、3人に伝えよう伝えようと思って、言って無かった事を思い出す。  


「ごめん、斜木、輝矢、久楽間……」
「うん?」
「どうかしたのか」
「なに?」  


 自分の名前が呼ばれて、やっと七基が思考停止状態から戻ってきた。
 言うのを忘れていた事を季肋は素直に話す。


「その、えっと……俺と五十竹……付き合ってる……」


「……」
「……」
「……」


 その言葉に宗氏以外の2人がとんでもない顔をした。  


「……キスまで……した……」


 その報告に、2人はわなわなと震えて、それから  



「「ちょっと、聞いてない!!!!!!!!!!!!!!!」」


v  仲良く、2人の声は、HAMAツアーズに響き渡った。


 

2026.1.10執筆
やっとここまで辿り着きました、次回はエロ編です!