正月となると、叔父が忙しいあく太以外は寮にいない昼班が多い。
普段は寮で暮らしているとはいえ、大晦日と三が日くらいは家にいてほしい、という家族の希望がある為だ。
潮も悩んでいたようだったが、ロボママと一緒に過ごすと言って、雪風からおせちを分けて貰い家に帰っていった。
あく太は悩んだが、叔父がいない以上家に戻っても仕方ないし、HAMAハウスにいることにした。
とはいえ、HAMAハウスにいる人間は少数だ。
可不可に主任、雪風、太緒、千弥、幾成、潜。あとは夜班のメンバーは皆残っていた。
先程、練牙や礼光は慌てて出て行ったし、添はどこにいるのか謎だ。
コンダクターは生行以外はみんな残っていて、朔次郎が忙しなく先程から動いて、ダニエルは夜鷹や潜と一緒に酒を飲み、也千代は―――――まぁ、いつも通りだった。
去年まではつまらなかったはずの大晦日が楽しい。
残った中では最年少だからか、皆あく太に優しくしてくれた。
「こうやってみんなで過ごす大晦日っていいね」
「……可不可さんもそう思う?」
リビングで紅白を見ながらぽつりと可不可が言う。
あく太には意外だった。
だって、可不可には主任や雪風、それに朔次郎や会った事はないけれども大切にしてくれる父親がいるから。
自分と違って人に囲まれて過ごしたのではないかと思っていた。
「うん、思うよ」
「へぇ、なんか意外」
「……去年までは病院で過ごしてたから」
「……」
そう言われて失言した、と思った。
慌てて謝ろうとすると可不可は気にせずに「謝らないでいいよ」と言う。
「それくらい元気そうに見えるってことでしょ?」
「うん、可不可さん、滅茶苦茶パワフルでスゲーって毎回思ってる」
「ふふ、あく太は素直で良い子だね」
そう言って髪の毛をそっと撫でてくれる。
その手にあく太は頬を緩めた。
「だからさ、こうやって大晦日にみんなで過ごせるのは嬉しいんだ」
「……」
「まぁ、旦那様は寂しいと言われていましたが……」
「もう、明日顔を出すからって言っておいて」
「……ふふ、可不可のお父さんも来て一緒に過ごしたらいいのに」
そう主任が言うと、嫌だよ恥ずかしいと言う可不可が少しだけ可愛かった。
「ねぇねぇ、太緒、今のダンスみた?」
「ああ、すげえな」
「俺たちもあれくらいパフォーマンス出来たら紅白に出られる?」
「え……どうかな?」
「囚人アイドルである以上、公共放送に出るのはかなり難しいと思われ」
「むむ……でもそうか……他の番組ならともかく、難しいかー」
真剣にアイドル研究をしている3人を見た後、あく太は台所に目線を移す。
そこには雪風と糖衣が人数分の蕎麦の用意をしていて、
「ふむ、ボクも手伝う!なづけて、初夢は傍蕎麦を作るのじゃ!」
「ざけんじゃねえ!今年最後に変な悪事はやらせねえぞ!」
「子タろ……初夢は大晦日に見るものじゃない…」
「蜂乃屋、そうじゃねえだろうが!」
台所に入ろうとする子タろを阻止する凪と琉衣。
凄く楽しい。
幸せで、でも――――――
「……」
ここには、季肋も七基も宗氏も潮もいない。
それが寂しかった。
なんて贅沢なんだろう、とあく太は思う。
去年に比べてこんなに自分は恵まれているというのに。
なのに、寂しいと思うだなんて。
紅白が終わり、番組は除夜の鐘へと変わる。
今年が終わり、もうすぐで来年へと変わる。
ひとつひとつ、鐘をつき、音がリビングに響き渡っていたのに、異質な音がいつしか混じり合う。
あく太のスマホだ。
「あ」
あく太は慌てて、スマホを手に取り外へと出る。
「すぐに戻ってくるね!」
誰かが声をかけてくれた気もするが誰だっただろうか。
あく太はスマホの画面を見て、誰だろうと思った。
「……っ」
その名前を見て、目を丸くした。
なんでだろう、と。
「……っ」
今頃、きっと妹や両親に囲まれて楽しく過ごしている筈なのに。
なのに、
『……五十竹…?』
新年が始まるであろうこの瞬間にわざわざ電話をかけてくれるだなんて。
「もしもし?季肋?」
『良かった……繋がった……』
「どったのォ?四季ちゃんやご両親と一緒っしょ?」
『うん……でも、絶対に起きてるって言って……四季は……寝ちゃった…』
「あー……」
そりゃそうだ、とあく太は理解した。
四季はまだ幼稚園児だ。
起きているのもキツイだろう。それでも、おませな彼女なら絶対に起きる!と頑張ったに違いない。
『それで……母さんも父さんも……四季と一緒に寝てる…』
「そっか」
そこまで聞いて、あれ?と思う。
しかし、何故季肋は起きてるのだろうか。
季肋だって別に夜は強い方じゃない。映画を見ていると最後の方で時折うとうとしてる時があることをあく太は知っている。
朝も夜も弱い季肋が目が開いている時は絵に夢中になってる時くらいだ。
「……季肋は?」
『っ……』
「季肋も夜弱いじゃん、どった?」
何か眠れない事でもあったのだろうか、と思っていると「えっと……あの……」と言いづらそうにしていた。
『……今年で最後と、来年と最初を……五十竹と話したくて……』
「……」
しかし、決意を固めたのか、季肋ははっきりと答えた。
季肋の言葉に今度はあく太が固まる。
「……へ?」
『一緒に……過ごせなかった……から…』
そう悔しそうに言う季肋に対して、ああ可愛いな、とか好きだな、とか、――――――会いたい、という気持ちでいっぱいになる。
「……」
ああ、なんでそうなんだろう。
いつだって、季肋はあく太が無理矢理押し込んで、卵から孵らないようにしていたものを上手に生ませてくれる。
寂しい、とか。
切ない、とか。
そんな、見ないでおいた感情でたまらなくなって、理由のわからない涙があく太から零れた。
『……五十竹、家族の邪魔はできないって……うちに来なかったから……』
「だって……悪ィじゃん……」
『悪くない……けど、言ってること、わかるから、我慢した……』
「……」
『本当は、五十竹にも一緒に来て、過ごして欲しかった……』
「……バカ」
『うん』
呟いた言葉は誰に対するものだったのだろうか。
無茶苦茶を言ってる季肋に対してか、勝手に相手の為だと思って我慢した自分か。
それはあく太にも解らない。
ただ、耳元で聞こえる彼の声が余りにも心地良くて、嬉しくて、寂しくて、幸せで、切なくて、会いたくて。
『……五十竹、』
「なーに?」
泣き声まじりの言葉にきっと相手は気付いてる。
でも、それを言ったらお互いに耐えられないから、触れないようにしていた。
『あけましておめでとう』
「あけおめ、季肋」
『うん』
「……」
だから、代わりに、今年も変わらぬ思いを伝えた。
「……だいすき」
『っ!』
去年大好きだった恋人へ、今年はもっと大好きになるだろう未来は、今始まっている。
2026.1.18執筆
季あくマンスリー『正月』で投稿させて頂きました。皆、家族がいる人は年明けはさすがに帰るだろうなって思っていて、潮は悩んだんですが、ロボママ1人にしておけないだろうなと思って帰宅させました。
ぶっちゃけペットロボがいるんだからロボママも一緒に暮らせばいいのにな~と思ってるんですが、ロボママ普段も潮の事待ちながら1人で家にいるの寂しくないかな…と思ってしまう、いつかストーリーで語られるといいな
季肋はあく太の見てこなかった感情を拾い上げてくれる人なのは公式設定なので、寂しいも辛いも切ないも全部受け止めてあげてほしいです。
あと、関係ないですが連作シリーズの軸上イメージで書いてます。