「い、五十竹……?ど、どうかしたのか…?」
「あー?」
何故か機嫌の悪い恋人に衣川季肋は焦っていた。
膨れた頬にへの字の唇。
いかにも拗ねています、という顔のあく太に自分が何かしてしまったんだ、と季肋は思う。
「別にィ……」
全然別にって顔じゃないが?と見ている全員が思う。
あたふたとする季肋を見て、HAMAハウスのメンバーは誰もが季肋の味方をしてやりたくなる。
別にあく太に厳しいというわけではないが、基本的に昼班のこどもたちに甘い大人たちだが、その中でも季肋には甘い人間が7割だ。
ちなみに残り1割が七基に甘い潜と添という男で、残り2割が主任、可不可や練牙や來人という中立的な人間、そして最後が誰にでも甘い『兄』こと神名雪風である。
「……」
「あ……あわ……」
いつもならここであく太を叱る誰かが現れるのだが、それをしないのは拗ねた顔をしながらもあく太が季肋の腕にぎゅっと抱きついているからである。
その様子はお気に入りのテディベアをとられたくない子供のようにも、お兄ちゃんに甘えている弟の図のようにも見えて微笑ましいものだった。
実際は恋人に甘える恋人の図なのだが。
「季肋ぅ……」
「は、はいっ!」
リビングで季肋にスリスリと甘える姿に、糖衣は顔と心はキャーキャーと言っていたが、琉衣は部屋でやれという気持ちとキロを困らせるなという気持ちで半分半分。
潮に至っては何やってるのこのバカップルと思いながらも口には出さない。
やはり、なんやかんやで誰もが季肋とあく太には甘いのだ。
「……」
「……」
「やっぱ、いーや」
「へ?」
やっと原因を言って貰える、と思っていた季肋は突然腕を放されて、離れていくあく太の様子に蒼白だった顔から更に血の気が引いた。
「え……あ……」
自分に背中を見せるあく太に何も言えず去って行くのを見る事しか出来ない。
「……あ、あぁ……あ…」
季肋はそれを認識して、ソファに座ったまま上下に体が揺れ始める。
「きろっくまがバイブモードに!」
「いや、千弥そういうこと言ってる場合じゃないから」
「キロちゃん!」
「キローーーーー!」
見守っていた大人達が事の終わりを見届けたと同時に、世界が終わったかのような季肋の傍に駆け寄り出す。
しかし、七基、宗氏と潮は逆に何も出来なかった。
何せ、あく太は誰がどう見ても季肋が大好きで惚れ込んでいるのだ。
それなのにあんな態度をとって去って行く。
どう考えてもおかしい。
何かあったのか?と考えるが、朝は何もなかった。では、学校で…?と思うものの、最近はいじめなどもないし―――――などと思っていると、
天からまったく有り難くもないどころかむしろ何も言わないで欲しい声が聞こえてきた。
「あ~、季肋、あく太に飽きられちゃった感じ?」
その声に季肋の体は更に小刻みに揺れ動き出す。
「あ、あき……」
「まぁ、学生時代の惚れた腫れたなんてそんなもんでしょ」
アハハ、と笑う添の言葉にもう、季肋はあと一つ突いたら死んでしまうのではないかと思う程酷い顔をしていた。
「ちょっと叢雲さん、余計なこと言わないでくれます?」
「アハハ、気に障った?おともだちのことだもんね」
「っ…!」
潮は握りしめた拳を今すぐたたき付けてやりたいと思いながらも、何せ相手は二階にいるので届くわけもない。
どっちにしろ添と潮では勝負にならないのだが。
こんな時、可不可か練牙、礼光がいれば添を窘めてくれるのだが、彼らは今仕事中である。
雪風をわざわざ台所から連れてくるわけにもいかないのでこの言葉に今は耐えるしかない。
「あ、あの……叢雲さん……あく太は別に季肋に飽きたわけじゃなくて……」
「あはは、解ってるよ、ジョーダン、ジョーダン」
そう言って手を振る添に潮は更に苛立ちを募らせていく。
潮からしてみると七基はこの男を慕っているというのがやはり信じられない。どう考えても信頼していい男ではないだろう、と思う。
「……衣川」
「輝矢……」
それをずっと見ていた宗氏はそっと季肋に近づく。
「僕達には2人のことは解らない、だが五十竹は突然あんな行動をとる男ではないと思う」
「……」
「僕達が問いただしてもいいが、でも、2人には2人にしか解らない事があるのだろう」
「……」
「僕とうーちゃんにしかわからないことがあるように」
「ちょっ……むーちゃん!?」
自分の名前が出た途端に潮は顔を真っ赤にして声をあげるが、潮に構うことなく宗氏は続ける。
「それは誰にでもあるんだと思う。僕と潮、潮と斜木、斜木と衣川、僕と斜木」
「……」
宗氏の言葉に季肋は耳を傾けた。
誰と誰の関係にでもあるもの。
それは例え嫌悪であっても、憎悪でもあっても同様。
好きな相手とならば更に増える関係、秘密、通じ合えるもの。
「五十竹と僕、うーちゃん、斜木、衣川と僕、うーちゃん、斜木、そして僕達とHAMAツアーズの仲間達」
「……うん」
「ましてや2人は恋人だ、きっと解り合える」
「……」
その宗氏の言葉を聞いて、添は笑顔のままでも雰囲気はイライラとした様子で踵を返して誰にも気付かれずに去って行く。
誰もその事に気付かずに宗氏はただ言葉を続けた。
「どうする?」
その言葉は、自分達が聞いた方がいいのか、季肋が聞くのか、というもの。
その答えなど、初めから決まってる。
「……いって、くる……」
五十竹あく太のことは、誰にも任せたくなかった。
だって、恋人なのだ。大事な人なのだ。
季肋は振り返ることなく走り出す。
自室までの短い距離を。
「キロちゃん…!」
「キロ……」
「……」
「季肋……」
「きろっくま……」
その様子に幼馴染みと七基と宗氏、千弥は満足げに見守っていたが、
「いやいや、走ったら危ないでしょ……」
「大丈夫か?季肋」
冷静に突っ込んでいた潮と太緒がいたことは、季肋は知らなかった。
「五十竹!」
「……」
自分達の部屋の扉をゆっくりと開く。
季肋はそこにいつもの場所に座っている、でも顔を伏せているあく太を見た。
季肋の言葉にゆっくりとあく太が顔をあげる。
泣いていないのに、泣いている、と思った。
「……っ」
あく太が季肋に気付くと、ぎゅっと抱きついてきた。
「季肋ぅ~」
「……い、五十竹…?」
「オレが……」
「……」
何を言われるんだろうと思って身構えながら、抱きついてきたあく太の背中に自分の腕を回した。
そして、
「オレが一番、季肋を好きなんだからなっ!」
思ってもいなかった言葉に、季肋は目を丸くした。
正月が終わり、HAMAハウスの風邪騒動も終わり、あく太の風邪も治って、冬休みが終わった。
そうなると来るのは、始業式――― 一月の学校の始まり、である。
楽しかった冬休みの終わりに見せつけるように大学生の添に手を振って見送られて、あす高の生徒達は寒い朝へと繰り出された。
とはいえ、あるのは無駄に長い始業式だけである。
去年ならば最後の日に纏めて適当にしていた宿題も、今年HAMAハウスに入ってからは宗氏を筆頭にまじめなメンバーに言われてあく太もコツコツやるようになっていた。
みんなでやると勉強も悪くない。まぁ成果はいわずもがなではあるが。
そうなると、クラスメイトの話題になるのは冬休みの出来事。
海外に行っただの、恋人が出来ただの、お年玉はどれくらい貰ったかなの、様々な話題があがるのをあく太はどうでも良さげに机に座って聞くだけだった。
――――――去年までは。
しかし、今年は少しだけ違う。
一つは、あく太には友達が出来た。――――――昼班のみんなである。
二つ、HAMAハウスにいる大人達があく太を大事にして可愛がってくれること。
三つ目は、あく太に恋人が出来た。昼班で最初から仲良くしてくれた衣川季肋である。
そして、最後は、その季肋が正月特番で放送された『セレブ格付けロワイヤル~年末スペシャル~』に出演してたことである!
「ねぇねぇ、年末の格付け見た?」
「見た見た、西園練牙やばかったよねー」
クラスの女子の言葉にあく太の興味は一気にそちらに傾く。
内心そうだよ、練牙さんすげえかっこよいよな、でも――――――と考える。
「西園練牙もいいけど、私は鹿礼光様推し!4区でさ~花文字書いて貰った時とか丁寧なおもてなしとか推せる」
「なら私はきにゃりだな~。 きにゃりは、Ev3nsで歌って踊ってるときは凄いカッコイイのにトークだと天然入ってるところが滅茶苦茶いいんだよね!」
「え~、私はそっちよりもちいの方がいいな。滅茶苦茶化粧上手だし~、可愛いし~」
「何言ってるの、ちぃ様も推してるに決まってるでしょ!、きにゃり、ちぃ様、たおたおの仲良しトリオはサイッコーなんだから!」
「……そういえば、こいつEv3ns箱推しだったわ……」
そんな女子の会話を皮切りに他のクラスメイトからも格付けの感想が上がってくる。
「格付けか~確かに凄かったよな~」
「うん、男でも礼光格好良いって思うしあこがれるよな~」
「俺はだんっぜん、夏焼千弥だわ。あそこまで可愛ければ抱けるね」
「うわ、キッショ!」
「きしょくねーわ、お前だって西園練牙の写真集持ってるくせに」
「練牙はいいんだよ、カッコイイから」
「さっき、お前、鹿礼光って言ってなかった~?」
「アホ、オレは西園練牙ファンなの、それはそれ、これはこれ」
「おまえこそ、キモいわ」
「うっせ、そういえばさ―――」
そこまで言って、突然話題が更に自分に近づいた。
「好青年って練牙と写真一緒に撮ってるんだよね」
「……え、嘘」
好青年?という言葉にあく太は内心疑問を抱く。
練牙さんと写真最近撮影してるのって潮以外にいるっけ?と。
しかし、あく太は人の悪意に気づかなかった。気づく必要もなかったが。
「まじまじ。―――最近、ボマーって活躍してるよなぁ」
ぽつりとつぶやかれて、なんでオレたちぃ!?とあく太は思う。
季肋と嫌なことがあったら見ないふりしないで怒ると約束したが、今はそうするべきなのか?とあく太は考える。
しかし、別に自分に言われたことでもないのだから無視したほうがいいのか?でも―――
「格付けも、衣川出てたよなぁ」
「……まぁ、なぁ」
季肋の名前にあく太の肩がはねた。
新年そうそう季肋の悪口か?と。だったら許さねーぞ、と思いながら。
「……なんか、その……凄かったよな」
「……なに、お前、衣川に惚れちゃったの?」
「馬鹿、そんなんじゃねえよ!」
そう言って、頬を赤らめて否定するクラスメイトに腕組みであく太はふふんと思う。
――――そうだろ、そうだろ、季肋って格好良くて可愛くて、絵も上手くて優しくてサイコーだろ!まぁ、オレの恋人だからあげないけどね!と
「うわ、あんた衣川に気があるの~?」
「……まぁ、衣川って、副会長や斜木くんがいるから目立たないけど顔、キレーだよねぇ」
「え?まさか、あんたも?」
「ち、違うし!ただそう思っただけ!」
「ま~、殿や斜木くんはちょっと高望みすぎるからねぇ」
「えぇ~でも、ボマーだよ?」
「そ、そう、一等星だし!全然そんな対象じゃないってぇっ!」
―――え、なになに、みんな季肋の魅力に今更気づちゃった感じィ?
あく太はまぁ、オレの季肋は世界一だし?と顎に手をおいて得意げに笑う。
あく太のその様子に『五十竹は、特にないわ』『まぁ、五十竹は問題外だけど』、『今日も五十竹の事気にしてるの俺だけかよ、ふん…』と思われているなど知らなかったが。
そう、最初は気分がよかったのだ。
最初は。
けれど、始業式で体育館に全校生徒が集まるととたんにそれが嫌な気持ちになってきた。
クラスメイトだけが噂するのならば、季肋の魅力がみんなに知れ渡った、と自慢げだった。
ところが、三年も二年も、
「ねー格付けで出てたのあの子?」
「そーそー、結構いいじゃん」
「身長たっかっ!」
「ねーねー、付き合ったら芸能人にお近づきになれないかなぁ」
「バッカ、それ目的で告るんじゃねーっての」
「可愛いけど、身長たけー、あれなら、俺抱かれてぇ」
「お前、癖が特殊だよなー」
「別にいいだろ、別に。一度関係もってくれねえかなぁ」
「うわぁ、さすがに引くわ……」
今まで見なかった季肋の事を注目して、恋愛感情だったり、性欲だったり、羨望だったり、色んなものを向けてあく太の気持ちがどんどんくしゃくしゃの紙のようになっていく。
季肋は自分の恋人で、
自分は季肋の恋人で、
でも、それは、今だけの話かもしれなくて。
もしも、もしも、季肋がこのまま有名になって、
絵が評価されて、
世界中に羽ばたいて、
そしてそして世界一の画家として取り上げられて、一躍有名に!?
と、そこまでならポジションジャンプすることが出来た。
でも、
ふと思ったのだ。
その時――――
衣川季肋の隣にいるのは―――――――自分なのか?
こんなに好きで、
大好きで
自分のダメなところを受け止めてくれて、
自分の映画を好きになってくれて、
自分を好きだと言ってくれて、
告白しあって、
キスして、
すれ違って、
お互いやっぱり好きだと知って、
体を繋いで、
もっと好きになって、
これ以上ないほど大好きで、
離れたくなくて、
自分は100年後も、季肋の隣にいたいけど、
季肋は、そうなんだろうか?
もしも、可愛くて、綺麗で、優しくて可愛くて、いい子が出来たら―――そっちのほうを選ぶんじゃないか?
その時、
世界一、季肋を自分が好きでも、関係ないんじゃないか?
季肋が世界で一番好きなのが、自分じゃなくなったら、
そう思うとガラガラに何かが壊れていく
季肋を好きになってからいつもこうだ。
まるで勝手に塗りつぶされたビデオの、積み上げてきた何かが、一瞬で壊れていく。
誰かに壊されていく。
そのたびに撮りなおして、撮りなおして、でも崩れていく。
季肋に聞けばいい。
ずっと俺のことが好き?
好きでいてくれる?
そういえば、きっと応えてくれる。そんなのは解ってる。
でも、それを聞くのはまるで、季肋のことを疑ってるようで嫌だった。
季肋の気持ちを信じていないようで。
だから、言えなかった。
自分でなんとか呑み込もう。
呑み込んで、そして大丈夫になろう。笑える自分になろう、そう思うのに上手くいかない。
帰り道、昇降口で待っててくれた季肋の腕に抱き着いてぬくもりを確かめる。
誰かが何かが言ってたような気がしたがそんなのはどうでもよかった。
とにかく季肋が自分のものだと確かめたかった。
でも、季肋にくっついて、季肋成分を吸収しようと思ったが満たされない。
「季肋ぅ……」
「は、はいっ!」
やっぱり聞くか?と思って思うがやっぱり言えない。
だって、そんなの、信じてないみたいで嫌だ。
季肋の事は世界で一番信じてるのに、そんなこと聞けない。言い出せない。
「やっぱ、いーや」
「へ?」
そう、いい。
あく太は立ち上がり、ふらふらと自分の部屋へ入る。
机にはウル太がいた。
いつものように指に嵌めようかと思ったが、今は逃げ出してるわけじゃない。だから、いいとそっと手に取りその場に座り込む。
「……ウル太ぁ……」
「……」
ウル太は季肋の指人形のように喋らない。
喋ったらいいのに。
喋って、何か言ってほしい。
でも、慰めてほしいのか、励ましてほしいのか解らない。
季肋の気持ちを信じられない自分が嫌だ。
こんなに、大好きなのに。
「……」
『芥しか―――』
季肋は、あの人と『母さん』と違うのに、
そこまで考えていると、扉が開く音が聞こえた。
「五十竹!」
「……」
必死な顔で、自分を見る顔。
ああ、そうだった。
衣川季肋は、いつでも、
「季肋ぅ~」
「……い、五十竹…?」
「オレが……」
「……」
いつでも、一番欲しいものをくれた。
絵も、
言葉も、
友情も、
信頼も、
ぬくもりも、
「オレが一番、季肋を好きなんだからなっ!」
「っ……え、あ…………お、俺も…」
――――愛情も、
「五十竹のこと、一番、好き……」
「っ……」
100点満点中の10000000000000000点をくれるのだ。
だから、好きだ。
衣川季肋のことが大好きで、大切で、望まないようにしていたものを彼から欲しいと思ってしまう。
愛も、絵も、居場所も、約束も、―――未来さえ、全部。
「……だ、だから、五十竹と一緒にいたい……え、えっと……その……」
「……」
「あの……、俺のこと、ずっと、好きで……いて、ほしい……」
「……」
「あ、ちが、そうじゃなくて……その、」
「季肋……」
「その、違わないけど、そうじゃなくて」
「季肋のバカァ~~~~~!!」
「え……」
「なんで、なんで、オレが言いたくても言えなかったこと、全部言っちゃうのォ!」
「へ?え……?」
「バカバカ、スッゲェ好き!大好き!!もうっ!」
「……」
そう言って、優しく背中をぽかぽかと叩かれながら季肋は首を傾げる。
とりあえず、嫌われていないし、飽きられてもいない、という事に季肋は安心する。
「…バカバカ、もう好きすぎて………ちゅーしたい」
「っ!」
安心しているところにそんな事言われて、季肋の穏やかさを取り戻そうとしていた心臓はまたもや走り出す。
「……五十竹…」
「季肋?」
そんなこと、恋人に言われてキスしたくならない人間がいるだろうか。
少なくとも衣川季肋はそうではなかった。
「目、閉じて……欲しい……」
「……っ」
そう言うと自分で言ったくせに恥ずかしそうにもじもじして、でも、それからぎゅっとあく太の目は閉じられた。
「……ん……」
もう数えきれないくらいしたのに、何度してもキスするとき緊張する。
鼻でしようとしても、なかなか2人とも下手糞で、でも離れたくなくて、
唇をついばんで、それから薄く開いた唇にそっと舌を差し込む。
味なんかしないはずの咥内が酷く甘く感じる、まるで飴玉みたいに。
舐めても舐めても甘さは変わらなくて、歯茎と歯の間をなぞってやれば、あく太の肩が跳ねた。
あく太も負けてはいられないと、差し込まれた季肋の舌に自分のものを絡ませる。もうこうなるとどちらの唾液が解らないものが唇の端からあふれ出る。
そして、
「……っ……あはは」
「…ふふ…」
力が抜けて二人そろって床に座り込んだ。
「あはは、何してんだろォ、オレたち」
「……えっと、……その、なんだ…?」
別に喧嘩してたわけじゃない。
ましてや、お互い嫌いになったわけでもない。
本当に何をしてたのか解らない。
「……オレ」
「……」
「やっぱり、季肋のこと、すっげェー好き、大好き」
「……ん…」
「誰にも、渡したくない……」
そうぽつりとつぶやかれた言葉に、それは自分のほうが、と思った。
こんなキラキラと輝いて、絵で描こうとしても上手く描けるとは思えない。
五十竹あく太の輝きも、笑顔も、綺麗さも、可愛さも、格好良さも、間違えなく自分は知っていて、こんなにも愛してるのに、一生をかけて彼を描こうとしたってきっと描けないと思う。
こんな愛してやまないモチーフは、
衣川季肋にとってのミューズはたった一人だけ。
「……あのさ」
あく太はそっと自分の気持ちを話し始める。
朝から思ってた、自分の抱えていたもやもやを、
そして、
「俺は……五十竹しか……好きにならないから……」
そう言われるのは、本当にたった数分後の未来のお話。
2026.1.21執筆
格付けイベントからずっと書きたかったもの。
季あくマンスリー様の『正月』『1月』『キス』で書かせて貰った話。
全年齢なんだけどえっちなキスを表現したくて頑張ってます