光風 +α

 幼い頃の俺にとって、彼は神様だった。
 実家のCDショップに現れて、色んなことを語った。
 本当なら、それだけで終わる関係だったのかもしれない。


 でも、俺と彼の間には風太がいた。
 人懐っくて、悪意がなく、不思議と惹かれずにはいられない、可愛い子が。


「お前は本当に酷いやつだよ」

 きっと、初めから解ってたんだ。
 俺と朔太郎を繋いでるモノは音楽でもあるけど、それ以上に風太で、
 俺と風太を繋いでるモノは朔太郎だった。
 お前を喪って、もう音楽なんてやらないと、ベースなんて弾かないと思った。
 でも、お前は風太にサックスを吹かせた。
 それは、風太の為でもあったし、俺のためだった。


 朔太郎と夢見た。
 いつか自分達のバンドで世界に行こうと。
 でも、お前が死んで、もう一度世界に行こうと夢見たのは―――全部全部、俺の夢だった。


「お前は、夢も、ベースも、音楽を俺が棄てられても、風太のことだけは棄てられないって解ってたんだ」
 だから約束させたんだろう?と言えば、きっと笑うに違いない。
『絋平、今更気付いたのか?』って。
 俺は朔太郎のコトが好きだった。
 これが恋愛感情なのか、たんなる憧れなのか解らない。
 キスしたいとか、抱きたいとか、逆に抱きしめられたいとかそんなことを思った事はない。
 でも、ただ傍にいたかった。
 隣で夢を見ていたかった。
 この日溜まりは多くの人のもので、それで良かった。


 でも、風太は、
 お前の弟に対しては、
 誰の手でもなく、俺の手で守りたかった。そうしなきゃ朔太郎との約束を破るような気がしていた。
 だけど、それだけじゃないと、それが全部俺の我が儘で、風太の一番でいたいんだと気付いた時に、ああ、そうなのかと思った。


 きっと朔太郎が生きていたら、風太のことを好きにはなってなかったかもしれない。
 いや、どうだろうか。
 風太は小さい頃から俺のことが好きだと言ってくれた。なら、自分の感情なんてどうであれ、結局は神ノ島風太に惹かれてしまう気もする。
 だって、俺にとって一番恐い事はベースを弾けなくなることでも、デビューできなくなることでもない。
 風太が笑えなくなることなんだから。


 結局、一度はできなくて、お前が風太を笑わせてたんだけどさ。


「……風太も、俺も、お前で世界が出来てた」


 朔太郎のことが好きだ。
 兄のように尊敬してた。
 初恋のように恋焦がれていた。
 ヒーローのように憧れていた。


 でも、風太を好きになって、それだけじゃないと気付いた。
 風太の中の朔太郎を感じれば感じるほど、朔太郎に嫉妬してた。  


 風太を泣かせたのはお前で、笑顔を奪ったのはお前で、
 あの時だって、風太の笑顔を取り戻したのはお前で、
 いつだって、俺は風太のことを守るコトはできなかった。
 ずっと、失敗続きだった。
 そうだよ、お前はいつだって狡いんだ。
 勝ち逃げじゃないか。
 おかげで、風太の一番はいつだってお前なんだ。
 俺も、岬も、あおいも、大和も、きっとこれから出会う人間誰だって、その位置は奪えない。
 それくらいお前は特別だった。
 風太の世界は全部お前が作り上げた優しい世界だった。


「お前の事が大好きで、大切で、でもずるいし、妬ましいし、憎いよ」


 きっと、俺がどれだけ積み上げたって、叶わない。
 勝てやしないんだ。
 笑って、サックスを吹いて、「絋平」と呼ばれたらこっちだって許してしまう。
 そういうヤツだ。


 でも、だけど、それなら、俺だっていいだろう?
 お前の一番大事なものを奪ったって。


「でも、お前を、お前が例え心の中にいたって、いや、そういう風太だから好きになったんだ」


 瞼を閉じれば、目の中の朔太郎が笑った
「だから」
 ああ、会いたいなと思った。
 風太の笑顔を見て、思い切り抱きしめたいと思った。


「風太のことは、お前から攫っていくよ」


 俺の知る風太はいつだって朔太郎の隣が大好きな子で、あやとりも、ボードゲームも、サックスも、いつだって朔太郎の隣ではお利口さんだった。
 朔太郎のことが、あいつは大好きだった。
 俺も、朔太郎のことが大好きだった。


   きっと、朔太郎と俺たちは別々になんて考えられなくて、複雑に絡まった糸はもうほどけないほど。
 でも、それでいいんだ。
 だって、俺たちはだから出会ったんだから。
「――――――俺、風太のことが好きなんだ」


 そう言えば、なんて返事するだろうかと思った。
 当たり前だけれど、答えはない。
 あったのは、駆けるような足音と、そして、  


「……オレも、やっちゃ大好きばい!」  


 思い切り抱きつく体温だけ。
「ふ、風太…?」
「もう、明日みんなで行こうって言っとったのに、先に絋兄ちゃん、来とったばい!」
「はは……ごめんな」
 そう言って風太は朔太郎に向いた。
「朔兄ちゃん、あんね、あんね」
「……」
「オレ、絋兄ちゃんと付き合ってるんよ!」
 そう言った風太の頬は赤かった。
「……一番大好きな人が、オレのこと一番好きって言ってくれたんよ!これってやっちゃすごか!」
 そう言って、にこにこと風太は笑う。  


 その言葉に絋平はざまぁみろ、と内心呟いた。
 さっさと早く死ぬから悪いんだぞ、と笑った。
 

「明日は、長崎でワンマンライブなんよ!やけん、朔兄ちゃん、しっかり聞いとってね!」
 そう笑う風太の声に絋平は笑った。
 きっと朔太郎も笑ってる。
 
 虹の向こうで、きっと待ってくれているだろう。  
それまでどうか、風神RIZINGの曲を聴いて待っていて欲しい。
世界どころか天国にまで届くバンドになるから