百年も生きているわけではなく、たった16年とちょっとしか生きていないけれど。
それでも彼と会った時、その笑顔のまぶしさに泣きそうになった。
命を救う仕事をしているのだという彼の笑顔は正直言えば下手くそだった。
なんとな無理矢理笑顔を作ろうとするその動き。
けれど、それがかえって俺にはちょうど良かった。
誰が役に立つのか、誰が裏切るのか、誰が何をかんがえているのか、誰を必要とするか、切り捨てるか、守るべきか――――――殺すべきか。
そんな事をお互い考えるような環境にいて、笑顔とは相手を安心させるためでも気に入られる為でもなく、本性を隠す為の仮面のようなものだった。
二年の特進コースという場所は正直言えば、一癖も二癖もある人物だらけで、そんな中、俺と真也が友達になったのは偶然なのか、あるいは必然なのかは解らなかった。
ただ、『青春』という不釣り合いな眩しいものをお互いほしがっているのだけは確かで、気がつけば俺の隣には真也が、真也の隣には俺がいるようになっていた。
シチリアにいるときには、義弟がいて、彼の姿は誰もが天使だと口を揃えて言っていた。けれど、自分はそうは思えなかった。
実際、中身はマフィアの息子らしく、自分と同じようにどす黒い何かを抱えており、ビアンキファミリーの一員として、父に忠誠を誓い、この血の一滴まで尽くすと決めた以上、彼の事を大切にしていたけれどもそこに特別な感情があったかどうかと言われると上手く言えない。
そんな場所で育ったものだから、神も天使も、イタリアというキリストのお膝元にいながらも信じていなかったけれども、真也に出会い、ああ天使はいるのだと思い知らされた。
優しくて、
温かくて、
眩しくて、
歯を食いしばって、
重い十字架を背負いながらも歩くその姿に焦がれた。
辛いだろうに、いつだって真也は最終的に人を許す。
その姿をずっと見ていたいけれど、それでも出会った時から解っていた。
彼が死ぬ瞬間、自分はそばにいられない事を。
ただ、会って良かったと思うには余りにも真也の存在は自分にとって大きすぎた。
マフィアとしての自分は、一生ビアンキの為に生きるけれども、それでも、真也が許してくれるならば、『白華時雨』は、自分の魂の在処は『柴咲真也』のところでありたいと思う程に。
それを俺が口にしたならば、真也はどんな顔をするんだろうか。
「時雨っ!凄いよ!!」
「真也、どうしたんですか」
「見て見て、一緒に―――――」
手を引いて、歩き出す。夏の日差しが暑い、小道。
風の声
蝉の歌
太陽の光
川の寄合水。
木々の揺れる音。
全部全部覚える。
いつか、君と別れて、太陽が余りにも遠ざかっても生きていけるように。
何よりも大好きな君の声を何千回、何億回も、聞きながら。
たった三年の、余りにも幸福すぎるこの楽園の中で。