「僕、デザインベイビーなんだ」
大した事はない、と言った千里の言葉を信じながらも、それでも布団を握りしめた手は震えていた。
時雨の秘密を知った。
だからこそ、自分もこれ以上の秘密を隠すのはフェアじゃないと思った。
何度も何度も言う時の事を頭の中で思い描いたけど、出した声は震えていた。
「……」
二人揃ってベッドに入って、やっと時雨が帰ってきた事が嬉しくて、枕を並べて向き合って告げた。
ああ、やっぱり駄目かな、と思っていたら、時雨が起き上がった。
「真也」
「時雨?」
「そちらに行ってもいいですか」
「え、うん」
そういって、時雨がベッドの中に入ってきた。
どうしたのだろうとドキドキしながら入ってくる時雨の体温を感じた。
「奪われるたびに、見失ってきた」
「……え?」
「どんどん奪われて、何の為に生きているのか解らなくて、どんどんそぎ落とされて今の自分がなんなのか解らなくて、でも一年半前、」
「……」
「真也に会いました」
「……」
「初めは同室だなんて無理だと思ったし、うまくいくわけないと思ってました。それは俺が人を奪う仕事をする人間だし」
「時雨」
時雨はやさしいよ、と言いたかった。
でも、それを今言うべきじゃないということはもう解っている。
それを言うということは、時雨を否定することだと真也は解っていた。
それにどんな時雨だっていい。今なら素直にそう言える。
幸せになると決めたのだから。
「でも、同時に惹かれた。命を救う仕事をして、笑って、明るくて、俺の名前を呼んでくれるたびに、手を伸ばされるたびに、何度も救われました」
「……え」
「もう、『優しい』自分なんて死んだと思っていた。でも、真也は俺を俺よりも信じてみつけたんだ。ありがとう」
「……変わったとしても、また変えれば良い。僕はずっと時雨の親友でいるよ」
「ありがとうございます」
「……本当はずっと前から答えなんてあった」
「うん、でも、その解が心地よかったから」
だから、自分達は一番大事なところをすっ飛ばしてしまった。
相手の事を見ようともせずに親友ごっこをしていた。
でも、今は、
「……だから、真也の生まれや育ちなんてどうだっていいんです」
そう言って時雨が真也の頬に触れた。
「……時雨?」
「むしろ、真也のお母さんにお礼を言わなければなりませんね」
「え?」
「真也が生まれて、俺に会ってくれた。そして、俺は真也に会えた、それだけで自分の人生にやっと意味を見いだせた気がします」
「……大げさだよ」
「いいえ、大げさじゃないですよ」
そう言って笑い合った。
「……実は真也にもう一つ、ずっと内緒にしてたことがあるんです」
「え、なに?」
そう言うと、時雨が笑った。
「俺は、ずっと、真也のことが――――――――」
その声が耳に届いて、一瞬何を言われたのか解らなくて、でも、真也は応えるように笑った。
僕もだよ、と言えば、形の良い唇が触れて、そしてもう一度見つめ合って微笑んだ。
優しさも憎しみも一緒に背負っていける半身と一緒に―――。