一歩進んで二歩下がる

  いつもは澄ました顔をしてるのに、時折無邪気に笑うコイツの顔を見ると3歳しか変わらないんだよな、と思う。
 人のことをお子ちゃまって言うわりにはくだらない事で熱くなるし、人をからかうし、割と寂しがり屋だし、そのギャップが女達はたまらないんだろうな、と思ったりもする。
 でも、そんなコイツを見てて一つ気付いたことがある。


 出会ったばかりの頃は、こいつは女好きで無節操の最低野郎って思ってたけど、実際のところは自分が思ってるよりずっと女の扱い方が下手だっていうことだ。
「フェイスくん、本当はそう言ってるけど、違う女の子とデートするんでしょ?」
「酷いっ、折角、フェイス君に会うために時間を作ったのに!」
「えーっと……ごめんね、今日はどうしても用事があって……」
「うそっ!本当は用事なんてないんでしょ!」
「フェイス君のことわかってるんだから!」
「……」
 いや、もしかするとこいつがしてきた積み重ねの結果がこれなのかもしれねえけど。
「何してんだよ」
「ジュニアくん!」
「聞いて、フェイス君っってば一緒に遊んでくれないの!」
「ただ、ちょっと出かけて欲しいだけなのにっ」
 そう頬を膨らませる女は黙っていれば可愛いのだろう、と思う。
 女のことはまったく解らないけれど、ディノが「フェイスに会うために皆必死で化粧して、おめかししてるんだもんな」と言って少しだけ考えが変わった。
 クソDJのことを考えないのは正直どうかと思わないけれど、こいつだってクソDJの事を真剣に考えて、好きになって、恋をしたのだ。
 そういえば、当の本人は見た目だけ、と言うけれどそうではないと思う。
 もしも、見た目だけならば元カノだってファンのヤツらだってすぐに離れていったと思う。でも、そうじゃないってことはそうじゃないことがコイツにあるってことだ。
 だが、コイツの事を信じて貰えないのはコイツが昔してきた事がクソで、どれだけ蔑ろにしてきたかってことだから同情はしないが。
「……悪いな、クソDJはオレと映画行く約束してんだよ」
「えっ、そうなの!」
「なんだ~ジュニアくんと一緒に出かけるんだ」
 オレが説明すれば、「なーんだ、先に言ってよね」と言って、ファンの子達は「ごめんね!」と離れていく。
「えぇ……俺、用事があるって言ったのに…?」
「……どうせ、彼女が沢山いた頃に適当に言いつくろってんだろ」
「……それはそうだけどさぁ……」
 今は真面目にやってるのに、と言いたげに少しだけ唇を尖らせる。
「……機嫌直せよ、後でココア買ってやるからさ」
「……まぁ、いいけど」
 ココアで餌付けされて機嫌直る程子供じゃないんだけど?と言いたげだけど、こんなことで拗ねるのも馬鹿らしいと相手も思ってるんだろう。
 その様子を思ってふと思った。
 こいつはいい加減なヤツだけど優しくて。
 昔はともかく、今は本当は苦手なのに、女の子がどうにか納得いくように必死に頑張ってる。
 そう思ったらふと思った。


 こいつのことは、オレが守ってやらないと……!って。
 それからというもの、オレはこいつが女の子に囲まれて困っているようだったら、助け出すようになった。
 クソDJのファンは厄介なヤツが多いイメージがあったがそれは偏見で、実際は話してみるとそんなに悪い子じゃなかった。
「そっかぁ、フェイスくん。本当に真面目にヒーローやるようになったんだね」
「ジュニアくんが言うなら頑張ってるんだね」
 そう言われる度に、「なんでおチビちゃんが言うと信じるんだろ……」と呟く。
 「そんなの人徳の差だろ」と言うと黙るのがまた面白い。



 なんだか、最近、ブラッドやディノ、オスカーが「フェイスは可愛い」って言うのが解ってきた気がする。
 3歳も年上の男に言う事じゃないかもしれないけど、顔を時折覗かせる年相応の部分が可愛いんだよな。
 同じ年齢のウィルとかビリーとかはそういうのないし、マリオンはいつでも格好良いし、キースが言ってた弟気質ってこういうものなのかもしれない。
 オレだって兄ちゃんには甘えたくなるし、優しくされたい。というと、こいつも無意識にそういう気持ちがあるのかもしれない。



 そう思って、ブラッドとオスカーに言って見たことがある。
 報告書を渡しに行くときに、
「クソDJって時折だけど可愛いよな」
 と言うと、一瞬目を丸くして、それから「フェイスはいつも可愛いが?」と首を傾げる男と、「そうだな、オスカー」と言われた男は「ハイッ!フェイスさんは昔からずっと愛らしくて……」と言い始めた。
 集約すると、やはりフェイス・ビームスという男は可愛いのが正しいらしい。
 まぁ、アイツって格好良いよりは可愛いだよなぁ、と思って本人がクラブに行っていない時にディノとキースにも言ってみた。
 すると、
「うん!フェイスは可愛いよな♪勿論、ジュニアも!」
 と嬉しそうに笑ってから、オレに抱きついてきた。
「ちょ、ディノ!」
「昔、ジェイが俺達のことを『俺のメンティーはみんな可愛い』って言ってたんだ。昔はそうかな…?って思ってたんだけど、今は俺もそうだな~って思うんだ♪」
 そう言って、抱きしめる力を強めた。
「俺のメンティーは、ジュニアも、フェイスも、オスカーも、アッシュもみ~んなかわいい!まさにラブアンドピースだな!」
 なっ、キース!とディノが嬉しそうに振り返る。
 するとそこには……
「…キース?」
 何故か時を止めたように固まっているキースがいた。
「……いや、まぁ、お前はそれでいいかもしれないけど」
「もう、キースはジュニアとフェイスが可愛くないのか?」
「そっちじゃねえ。そうじゃなくて、ジュニア」
「うん?」
「おまえ、フェイスのこと可愛いって思ってるのか?」
「……いや、別にいつもは思ってねえよ!ときどき!ほんとーーーーーに時々!」
「かっこいいじゃなくて……?」
「はぁ?かっこいいのはマリオンとか兄ちゃんとかだろ!」
「……」
「……あ、あと……ディノと……たまになら、キースも…」
「……ジュニア~~~~!!」
「…お、おう……ありがとうな……」
 いつもなら恥ずかしがって言えなかったけれど、でも、キースの凄さはオレだって解ってるし、たまに、本当にたまには格好良いって思ってる。
 それを伝えたくて言うと、キースは嬉しそうにしつつもどこか困ったような顔をしていた。
 嫌だったのか?と思いながらも、ディノが嬉しそうにわらってオレを抱きしめるモノだから、理由を聞くのを忘れていた。


 もっとも、後で「ありがとうな」と頭を撫でてくれたので、嫌がってはいないようで安心したが。



「最近、おチビちゃんが女の子に囲まれると助けに来てくれるんだよね」
「へぇ……」
「初めはパトロールの邪魔だからって思ってたけど、オフでも助けてくれることが多くてさ」
「ふぅん……」
「これって、嫉妬してるってことだよね?」
 そう言って、嬉しそうに3歳年下の同僚に恋心を抱くメンティーはニコニコと嬉しそうに笑う。
 俺は面倒くせえし、それに対して特に何も答えなかった。
 フェイスは面倒くさい。
 昔はジュニアは面倒くさくて扱いづらくて、フェイスは察しがいいと思っていたが、最近だと背伸びを辞めたジュニアよりも余程フェイスのほうが面倒くさかった。
 元々の甘えたがりな気質がそうさせるのだろう。
 構って欲しい時と構って欲しい時があって、それを見分けるのがまず面倒くさい。
 最も、誰かと戯れたいときにはそれがジュニアに向くし、察しの良いディノが構い倒すので、キースは大体が高みの見物だ。
 しかし、今回ばかりはパトロールでペアになり、本人であるジュニアと惚気づらいディノではなくキースが恋心についてべらべらと話される。
「……へぇ、良かったじゃねえか」
「でも、おチビちゃん、いつ俺に告白してくれるのかな?絶対に俺のこと好きだと思うんだけど初めてだしなかなか切り出せないのかも」
 キース、どう思う?と言われて内心知らねえよと思う。
 そもそも、自分じゃなく相手にさせるのが決定事項かよ、とか、ジュニアがお前が好きって確定してるのかよ、とツッコミ処が満載だ。
 だが、別にジュニアはお前のこと好きじゃないと思うぞ、といえるほど確証があるわけじゃないのでその時は黙っていた。



 だが、まさか――――――


「……チビDJの時も思ったけど、弟っているとああいう感じなのか?」
「どうだろう?でも、ジュニアにもし弟がいたらきっと、すごく可愛いんだろうな!」
「ディノは弟はほしくなかったのか?」
「あんまり考えた事なかったけど……あ、でも、最近出来そうになったことはあったよ!」
「出来そうになった……?」
「えっとね、セイジくんのところの――――――」


 キースは確証が出来て心のなかで「ご愁傷さん」と思う。
 更にはフェイスはかわいいで、自分とディノが格好いいなのも少しだけ申し訳思いながら。
 初恋にこれからも振り回されるだろうもう1人のメンティーの恋路を少しだけ応援して。


 でも、ほんの少しだけ、自分をカッコイイと言ってくれた事を喜びながら、キースは空いていないビールの缶をテーブルに戻した。

 

フェイジュニワンドロ第5回
お題『【ホットドリンク】【無邪気】【餌づけ】』