運命

 幸せってのは、誰かの犠牲の上で成り立ってるものだと知っている。
 自分の不幸を糧に誰かが笑ってる。


 親父に殴られるのも、
 母親に置いていかれるのも、
『そう』できているんだから仕方ない。


 そう思っていたのに、


「キース!」


 不幸が続いて、もう吸い尽くす不幸なんてなくなったんだろう。
 俺のところに『幸福』がやってきた。


 ディノと出会って、俺の世界に彩りが生まれた。
 モノクロだった世界がカラフルになった。
 幸せだと、思えるようになった。
 手放したくないと思えるものが増えた。


 ブラッドが友達になって、
 ジェイがメンターになって、


 AAになって、
 ああ、このまま幸せになれるんじゃないか、だなんて思ってたんだ。
 なのに、
「は…?ブラッドなに言って、」
「聞こえなかったのか」
 冗談だと言ってほしかった。そんなことはないと、
「ーーーディノは死んだ」




 『カミサマ』ってやつがいるなら、ろくでなしに違いねえ。
 吸い尽くしたところで、幸せを与えて、
 幸福で満たされたところに、それを取り上げる。
 まるで子供に子犬を渡して、子犬を目の前で取り上げるように。


 やめてくれ。
 やめろやめろやめろやめろやめろ。
 もうやめろ。
 もうなにもいらない。


 もう、何も、何も与えないでくれ、
 そう思うのに、


「聞こえなかったのか」
「あ?」
 きっと、与えられても、また取り上げて、


「ウエストセクターのメンターの件についてだ」
「……冗談きついぜ」
「冗談ではない」



 そして、辛い目にあう。
 なら、はじめから大切にしなきゃいい。
 こいつらなんてどうでもいい。
 メンターなんて仕事、やりたくもない。


 なのに、どうして、


「……バカはどっちだよ」


 『カミサマ』ってやつは、こうも俺みたいなやつに、こうやってキラキラしたやつを寄越すんだ。


「仲間を助けに行きたいって気持ちはわかるけど、もっと自分のこと大事にしろよ」


 どうして、ブラッドやジェイすら否定したことを肯定してくれるんだ。
 なぁ、ディノ。

 4年ぶりにお前のことを聞くやつが現れたんだ。
 これをお前が聞いたら、きっと「運命」って笑うんだろうか。