「雨か」
「……」
アラタがハルキの部屋に着ている最中、外でぽつぽつと雨が降り始めた。
アラタは何も言わずに雨を見つめていた。
「アラタ…?」
ハルキはアラタの様子がおかしいと感じてアラタの名前を呼ぶが反応しない。
「アラタ?」
「っ…」
もう一度呼ぶとやっとハルキの声が届いたのかアラタはハルキの方を振り返った。
「ごめん、何?」
「否、なんだか様子がおかしいから……」
「様子がおかしい、か……うん、ごめん」
「?」
心配して言えば、アラタは何だか困ったように笑った。
「アラタ?どうかしたのか?」
「……」
「……」
ハルキは穏やかに尋ねて、ゆっくりとアラタが何かを言い出すまで待つ。
アラタは言おうか言わないか考えて、
それから、口を開いた。
「少し、」
アラタらしくない、ぽつりぽつりと言葉を選ぶような言い方。
「昔の事を思い出したんだ」
「昔?」
アラタの言葉にそういえば、自分はアラタの過去をしらないなとハルキは思う。
当たり前の事だが、そんな事は気にならないくらい一緒にいたから解らなかった。
最も、アラタも自分の過去を知らない。
小隊長になる前の自分や、学校に来る前の自分をアラタは知らない。
勿論、サクヤから小隊長になった時の事件は教えられたようだったが、それ以外はお互いの過去は知らないし、知る必要がないと思っていた。
だが、少しアラタの様子がおかしくて、ハルキは心配になる。
「……何か、あったのか?」
聞くのは本来禁止行為ではないかと思ったが、
それでもアラタの様子がおかしい事が気になってハルキはついつい尋ねてしまった。
すると、アラタは黙って窓の外を見つめていた。
ハルキはそんなアラタにせかすことなくただ隣で黙って待っていた。
アラタは目を一度閉じて、それからゆっくりと開いた。
それからハルキの顔を見つめる。
それでも何も言わないが、ハルキはアラタの瞳に語りかけるように目線を合わせて見つめ合った。
すると、想いが伝わったのかアラタはゆっくりと語り始めた。
「…この学校に来る前さ、オレ、LBXバトルがあんまり上手じゃなかった」
そしてそれはハルキも知っている事だった。
大会で三回優勝。
だけれど、三回目はまぐれだったし、他の二回の優勝もそこまで有名な大会ではないと。
だが、今そんなこと関係あるんだろうかと思っていると……
「だから、いつもチーム戦だと入れて貰えなくてさ、色々作戦を思いつくんだけど無理だって言われたなって……」
「それは……」
アラタの話を聞いて、ハルキも思い当たる節がいくつかあった。
アラタの作戦は奇抜なものが多い。
勿論、成功すれば成果はすさまじいのだが、それを納得して行う人間は少ないと思う。
事実、自分も何度かちゃんと考えろという事や、無理だという事はあった。
その度に、アラタは何で諦めるんだと叫んでいた事をハルキは思い出した。
「……そのうち、LBX一緒にやってくれる人もいなくなって……
ううん、それだけじゃなく、オレ弱いからカモにされていた」
あははと笑うアラタにハルキは何も言えなくなる。
いつも笑っていて、自分達の先頭に立ってくれているアラタにそんな過去があるとは思わなかった。
しかし、アラタが嘘を言う人間ではないのは知っているから事実なのだろうとハルキは考える。
「でも、昔のことだろう?」
「うん、昔のこと」
そう言ってアラタはくすりと笑った。
とても、寂しそうに。
「だけどさ、思っちゃうんだ……
いつかまた、皆にもうお前とはやらないだなんて言われたらって……」
「……そんなこと…」
「だって、オレはさ、色々作戦考えると1対1だとほとんど弱いんだぜ?」
ヒカルにもハルキにもよく負けるしさとアラタは笑う。
その笑顔がとても悲しくて、ハルキは何も言えなかった。
「……あ、雨止んだ」
「アラタ……」
「何?」
そう言って雨がやんだと同時にアラタはにこりと笑った。
まるで、太陽の休憩時間は終わったといわんばかりに。
それが逆に悲しくて、ハルキはそれでも伝えなければと思って、
「オレは、学園内だろうと外にいってもお前の味方だ」
伝えたいたった一言伝えると、
アラタは涙の雫をぽとりと落とした。