「……っ」
「す、すまない」
「い、いや……」
ただ、手が重なっただけ。
それだけの事だけれど、でも何故かそこから痺れるような感覚が発して、
一瞬で胸の鼓動が早くなった。
「……」
何故かハルキの顔を見るのが恥ずかしくて顔を俯かせた。
「……君達は何やってるんだ」
「ひ、ヒカル?」
「ヒカル…」
何だか動けずにいると、前に座っているヒカルが痺れを切らして口にした。
「早くしないと遅刻するんだけど?」
「ご、ごめん!」
「悪かった」
もっともな言葉にアラタとハルキは慌ててご飯を口に含め始める。
「……」
イライラしているヒカルの隣では「仕方無いなぁ」とサクヤが溜息を吐いていた。
結局、二人は慌てて食べて、その後着替えを終わらせたお陰でその日は何とか間にあいそうあった。
「……はぁ、何とか大丈夫そうだな」
「君達が食べるのが遅いんだ」
「悪かったってば、ヒカル」
そう言いながら、第一小隊はダック荘を出た。
靴を履いて歩き出すと、ハルキはアラタの隣にさりげなく移動する。
その事を不審に思う人間はいない。
一方でアラタは少しだけハルキの足元を見ていた。
隣に並ぶハルキの足の歩みに合せてほんの少しだけ速度を変化させて、けして追い越さぬよう、追い越されないように調整していた。
自分でもその理由は解っていない。
でも、何だかハルキの速度に合わせて歩きたい気分だった。
というよりつい最近ではずっとそんな気持ちなのだが。
「……二人とも遅い!」
「ご、ごめん!」
「すまない……」
勿論、その度アラタとハルキはヒカルに怒られてばかりいた。
これももはや毎日の事になりつつある。
だが、やめられない。
「……あ、」
「まったく、行くぞアラタ」
「ちょ、ヒカ――」
苛立ったようにヒカルはとうとうアラタの手を握って走るように促す。
だが、
「っ」
「……え?」
ハルキが慌ててアラタのヒカルに握られていない方の手を掴んだ。
「……」
「す、すまないっ!」
それは本人も咄嗟の出来事だったようでハルキは慌ててアラタの手を離す。
その顔は何故か真っ赤になっていて、慌てているようだった。
それにつられてアラタも顔を真っ赤にしていく。
「あ……えっと…」
「その……」
「……」
それを見てヒカルは何だかますます苛立ったような表情をして―――
だが、
「ほら、皆早くしないと本当に遅刻しちゃうよ?」
「え?」
「は?」
「……」
「急ごう?」
そうサクヤは促してヒカルの手を握って走り出す。
勿論、ヒカルはアラタの手を握っているため、アラタもつられて走り出す。
「は、ハルキっ!」
「アラタ!」
それに対して慌ててハルキにアラタは手を伸ばす。
慌ててハルキはもう一度アラタの手を握った。
その途端、また胸が熱くこみあげてくる。
だが、その感触を確かめるようにハルキは力強くアラタの手を握った。
「……っ」
その感覚にアラタもまた何だか恥ずかしくて、でも嬉しくて不思議な感覚で
走りながらもそちらの方に意識が集中してしまう。
その意味は解らなくて、一体この気持ちがなんなのか解らない。
知りたい、でも知りたくない、そんな気持ちがいっぱいで―――
「まったく、世話がやけるんだから」
そうサクヤが呆れたように呟いた声だけが耳に届いていた。