―――結局、どんな人だったんだろう
海道義光という人物は
バンにとって、海道義光というのは父を攫った相手であり、大切だった人を狂わせ死に追いやったような存在だった
それでも、ジンにとっては家族だったという
大切な存在だったと
何処からが本物の彼で、
何処からがアンドロイドだった彼なのかはバンにとっては知らない
きっと、それはジンも一緒だ
本物の彼は何処で眠っているのか、何時死んだのかも解らない
だからこそ、彼と共に住んでいた家で暮らすべきなのではないかと思った
けれど、彼は首を振って
「いいんだ」
と言った
それがどういう意味なのかはバンには解らない
バンにとって、父が亡くなったと聞いた時は幼ながらに父の部屋に入って、
亡き父の感覚を必死に忘れないようにしたものだった
少ない想い出や、LBXを行う事で父と繋がっていたかった
けれど、ジンはあの家を出ていくという
執事の人と
「…なぁ、ジン
本当に行っちゃうのか?」
「うん、もう決めたんだ」
そう言う彼は揺らぎない顔をした
想えば、出会った頃の人形のようだった彼とはまったく違う
あの頃のジンは海道の人形そのものだった気がする
だけど、今は人間として必死に歩きだそうとしているのだとバンは想った
「…大丈夫だよ、学校は変わらないし、会えなくなる距離じゃないんだから」
そう笑うジンの顔は優しくて、
今のジンの方がバンはずっと好きだった
そして、今の方がきっとジンにとっては良い傾向なのだと思う
けれど、ジンにとってどちらが幸せなのかと尋ねられるとバンは解らない
「…ジンは…」
寂しくないのか?
と尋ねようと思った
けれど、それを訪ねてしまうのはなんとなくずるい気がした
「これからどうするんだ?」
だから二番目の質問をすると、ジンは笑って
「償いをしたいんだ」
と口にする
「償い?」
「御爺様がしてしまった事の」
「…それは…ジンのせいじゃ…」
ないじゃないかと言おうとすると、「ありがとう」とジンは笑って、
それから
「だけど、レックスの最後を見て僕なりに考えたんだ
きっと、レックスのように御爺様に狂わされた人はたくさんいると思うんだ」
「…」
それはジンの責任じゃない
だけど、それを言うのは自分のしてきた事を否定する事だった
エターナルサイクラーのせいで起きた騒動
それは世界を救いたいという気持ち以上に、父の作った事による責任を負っていたから
もちろん、父は純粋にLBXを、そしてそれを愛する人たちを愛していたからそれを作った訳であって、
海道義光とはまったく違う訳だけれど
「だから、この家を引き払う事で僕なりに多分けじめをつけたいんだと思う
それに―――」
「それに?」
「レックスが頼まれた事を、この世界を治そうとしている君を僕なりに助けたい」
「…ジン」
そんな事言われてしまっては、もうバンに止める術などある筈が無く、
「…うん、頑張ろうな二人で!」
「ああ、勿論だ」
そう言って手を繋げた
だけど、それと同じくらい伝えられたらいいと心から想って、
幸せな想い出まで捨てなくていいんだよ―――
それを解ってもらえたらと願いながら
ただ、二人手を繋いで
そして、歩き出す
まだ、救われていない世界へと