溶けるほどの甘さで

「バン君」
「…」
「行こう」
そう言って伸ばされた手にゆっくりとバンは自分のものを重ねた
「…うんっ」


男同士で変じゃないかなと思ったりするけれど、
それでも友達だったらおかしくないよねとバンは自分に言い訳をした
ジンとバンは恋人同士だった
だけれど、誰にもバレないようにお互い必死にしていた


「…トキオデパートで待ち合わせって何時だっけ?」
「あと3時間くらいかな」

ミゼルの事件が起きて数ヵ月後
未だLBXに対する不信感は消えない
それでも、多くのLBXを制作している会社も、関係者も、皆が頑張っているのが解る
今日は全員でスタッフとしてLBXのイベントを手伝う事を約束していた
最も、バンはTO社、ジンはSL社としてだが


「…約束の時間までどうしようか」
「…うーん…」
そう言ってバンは考え込む
「…そうだなぁ…」
ちらりとバンはジンを見てそれから、
「…少し、回ろうか」
そう口にすると、
「ああ」
にこりと微笑んでジンは答えてくれる
それだけでバンの頬は赤くなる


「…え、えっと…あ、あの…」
「うん?」


それを隠すかのようにバンは何かを紡ごうと口を動かす
そして、
「あ、あの、此処のアイス屋さんって美味しいんだって!」
「…アイス…?」
「い、一緒に食べない?」
「…」
「ジン?」
「いや…食べようか」
そう言ってジンはにこりと笑った
だが、一瞬何か困ったような顔をするのを見て、バンは何か悪い事を言ったのだろうかと思う
「…バン君?」
じっとジンを見つめていると、
逆に心配そうに見つめられた
それをごまかすように
「行こう!」
バンはジンの手を握って走り出した
「…此処だよ」
アイス屋の前に来ると、ジンはやはり困ったような顔をしていた
「…ジン?」
「…」
「あの…」
もしかして、アイスが嫌いなんだろうか
そう思っていると
「バン君」
ジンに名前を呼ばれた
そして、
「…実は、僕…こういうものを食べた事がないんだ」
ジンは意外な事をバンに告げた
「…え?」
「だから、どう選んだからいいのか解らないんだ」
そうジンに言われて、バンはやっと納得する
「…バン君?」
「ううん、何でもない少し待ってて!」
困っていたのは勝手が解らなかっただけなのだと
そう思うと少しだけ足が軽くなる
そして―――
「すいません―――」
バンは人気だというアイスを2本選び買って、
「はいっジン!」
そのうちの1本をジンに渡す
「…これは…」
「こうやって食べるんだよ」
そう言ってバンはアイスにかぶりつく
それを見て、ジンも同じようにアイスを口にする
「…美味しい…」
「…ね?」
そう言って微笑むバンの笑顔が眩しくてジンは少しだけ目を細めた
「…あ、ジンのも食べたいな」
「あ…ああ」
そう言ってバンは笑顔でジンの持っているアイスを口にする
「…美味しい」
「それは良かった」
「ジンも、ジンも食べてよっ!」
「あ…ああ…」
そして、ジンもバンの差し出したアイスにかぶりつく
ゆっくりと甘い味が口の中に入り溶けていく感覚
始めて味わったそれにジンは頬を緩める


そんなジンの顔を見て、バンは更に微笑んだ


「…なんだ、あれ…」
「そうね…あれは―――馬鹿っぷるかしら…」


そんな二人を見て、同じように早くついたアミとカズがげんなりと二人を見ていたのは―――
また別のお話