そして、君の笑顔を、もう一度、

「ジン…今日は楽しかった…」
「僕もだよ、バン君」
そう言って、海道ジンは山野バンの頬に触れて、そのまま口づける
「ん…んん…ジン…」
「ん…ばんく…」
ぺろぺろとお互いの舌を絡ませて、
山野バンは自宅の前で海道ジンと口づけを交わしていた
やがてゆっくりと糸を引いて唇が離れていく
「…バン君、また明日」
「うん…また明日」
ふにゃりと微笑むバンの頬をジンは撫でて
名残惜しそうにゆっくりと手を離した


「…ジン…今日は楽しかった!」
そうジンに声をかけるとジンはふっと微笑んでそのままバンに背中を向けて歩いていく
しかし、バンはずっとジンの背中が見えなくなるまで手を振り続けた―――


「…」


それから真理恵の待つ家へと入ろうとした途端


「…っ…」


バンは―――意識を手放した



「ジンさん、昨日はどうでしたか?」
「ああ、ヒロ」
にこにこと昨日、バンと一緒にいった映画のチケットをくれたヒロに声を掛けられて、
「楽しかった」
と話す
「そっかぁ、凄い面白い映画だって言ってたもんね」
隣にいたユウヤもにこやかに微笑んでいた
ヒロとは同じ町に住んでおり、その上同じ中学に通う為こうして通学を一緒にしている事が多かった
ユウヤは八神家に世話に今は鳴っている為、大抵はこの3人で通学する事が多い
前であれば、車で送らせていたジンだったが
今ではこうしてヒロやユウヤと話しながら通うという事が楽しくてたまらなかった
「…だけど…」
「どうかしたの?」
「否…昨日、夜にメールを送ったんだが返事が来なくて…」
そう言ったらのろけですか?と返される事は予想していた
だが、ヒロは驚いた顔をして
「ジンさんも…ですか?」
と口にした
「…え?」
「僕もなんです…
昨日、ジンさんと同じように映画どうでしたか?って聞いても…」
その時は寝てるかと思ったんですけど…と言われて、
ジンはおかしいと思った
自分も昨日は寝ているだけかと思った
しかし、ヒロのメールにも返事を返していないと聞いて不思議に感じる
「ちなみに何時だ?」
「えっと…21時くらいです…」
「…ぼくがバン君を送り届けたのが20時半だ」
「…え?」
早合点してはいけない
そう考えヒロに事情を尋ねる
しかし、話を聞けば聞くほどおかしいと感じる
何故?
結局、ジンは慌ててヒロとユウヤを連れて、駅に着くと学校へと走り続けた
「…ジン!」
教室に入るとアミとカズに声をかけられる
そして、
「バン君は?」
そう尋ねるとアミは暗い顔をして―――
「バンのお母さんに聞いたら…家に帰ってないって…」
衝撃の事実を伝えた





「…くっ…」
それからは暇さえあればバン君を探していた
「…ジンさん…」
「ああ…大丈夫だ…」
心配そうなヒロとユウヤの瞳に首を振って無理やり微笑む
だが、二人はそれを変化させない
「…あの…ジンく―――」
ユウヤは心配そうな顔のままジンに声をかける
その時だった
ゆっくりと何者かが3人の前に現れたのは
「…え?」
「…嘘…」
「…っ!!」
それを見て、3人とも目を見開く
それは―――
「バン君…」
驚くジンの言葉
それに呼応するかのように
「…オーディンMKⅡ…」
自分のLBXの名を呼び、
そして―――
「ジンさん危ないっ!!」
ヒロは咄嗟に自分のアキレスD9を操り、ジンの前に立ち―――
「…アキレスD9っ!!」
ジンを庇う為に”盾”となった
「…」
その動きが信じられなくてジンは茫然としたままだった
だが、オーディンMKⅡの動きはけして止まることなく―――
そのまま…
「ジン君っ!!」
ユウヤがジンの名を叫ぶがジンは動く事は出来なかった
愛しい人が自分の命を奪おうとしている事を―――さすがのジンも受け入れられなかったのだ
「…っ!
リュウビッ!!」
そんなジンを見て、ユウヤも自分のLBXの名を呼び、オーディンMKⅡの前に立つ
だが、それもすぐに
「…くっ」
たった一撃で吹き飛ばされる
しかし、
「ジンさん、逃げて下さいっ!!」
「ジン君っ!!」
ヒロもユウヤもジンを逃がそうとCCMを操り、オーディンMkⅡの邪魔をする
最もそれはあくまでその場しのぎのもの―――時間稼ぎになっているかどうかのものであった


「…バン君…」
「いノべー…たー…ウらぎリモの…ころ…ス」
そうたどたどしく呟かれる言葉にジンは
何故自分が狙われたのかやっと理解する
そして、よく見るとバンの首にはしっかりと―――
「スレイブプレイヤー…」
操られている証として首輪がしっかりとされていた
「…っ」
「コロ…す…ジ…ン…」
そうジンの名をバンは口にした
その途端、バンの瞳から涙が流れだす
「…え?」
それを見て、ジンは更に動揺してしまう
しかし、それはバンも同じようだった
一瞬、オーディンMKⅡの動きは止まる そして―――
「ちが…オレは…ジンを…ちがう、コロス、ころ…ちがう…違うオレは―――」
まるで去年のアルテミスのユウヤのように
戸惑いながらも戦い続ける
そのバンを見て―――
「…っ」
「ジンさんっ!」
「ジン君っ!?」
ジンはCCMを握りしめた
そして―――




「力を貸してくれ、トリトーン…」


自分のLBXに願いを託してオーディンMKⅡの前へと
しっかりとハンマーを手に戦う
「…っ!」
それを見て、オーディンMKⅡはしっかりと持っている槍でハンマーを受け流す
カキンカキンとなる音は
戦っている音であるのに、
激しさよりも、バンとジンが奏でる音楽のように綺麗に鳴り響く
ずっと戦っていたい
そう思うくらい楽しかったLBXバトル
いつだって、ジンにとってバンとのバトルは楽しいものだった
しかし―――

「…バン君」

あの日、何故しっかりと扉の中に入らせなかったのかジンはずっと後悔した
淳一郎も真理恵もジンを責める事は一度もなかった
それが逆にジンにとって辛かった
毎日、やせ細っていくジンをヒロとユウヤはいつも心配していた
泣くに泣けないジンの代わりにアミは泣いてくれた
カズもジンの手助けになればと、シーカーの協力を仰いでくれた
それらの優しさが嬉しい分、ジンは苦しめられていた
ずっと、
誰も自分を責めない
この幸せはバンが与えてくれたのに、その場にバンがいない事が辛すぎた

だからこそ、取り戻す
しかし―――

「必殺ファンクション、オーシャンブラ…」
「超必殺ファンクション 超プラズマバースト」


ジンは自分のもてる最大の必殺技を用いてバンに挑もうとした
だが―――


「ジン君っ!!」
「ジンさんっ!!」

「トリトーンっ!!」
その前にバンの手によって、ジンの愛機―――トリトーンが…
「…あ…あぁ…」
こなごなに砕かれた
「……っ」
「…そん…な…」




それを見て、バンはにやりと微笑み
そして、そのままオーディンMKⅡでジンの首筋を狙う
しかし―――
「…だ…駄目だっ…」
「え…」
「バ…ン…さん…?
その時だった
いつものバンの声がしたのは
「…バン君っ!?」」
ジンは慌ててバンの顔を見る
しかし―――
「あ…あぁ…あ…」
その時まるで痙攣するかのようにぶるぶるとバンの体が震えた
そして―――



「…っ…」
「…まだ改良の余地があるか」


何者かが現れ、バンの背中を殴り、気絶させた



「…なっ…」
「ああ、久しぶりだね
海道ジン、灰原ユウヤ―――そっちの子は久しぶりかな」
「貴様は…」
何者だ
そう言う前に、目の前の人間―――仮面の人物はバンを抱えた
そして、
「私はレベリオン」
「レベリオン…」
レベリオン―――反逆者と名乗ったその人物はにやりと笑った
そして、
「…海道先生を裏切った事を後悔させてあげるよ、
海道ジン、灰原ユウヤ」
「…お前は…」
「次、山野バンに会う時まで腕を磨けばいい
たった一つの駒だけれど―――でも、君には十分だろう?」
その言葉を聞いて、ジンは目の前の人間がどれだけゲスなのかが解る
だが、トリトーンが壊れた今、ジンには何もできない
また、アキレスD9やリュウビも損傷が激しく、何もできない状態だった


「…っ…」
それでもジンは何かしようとそのまま仮面の人物に向かって殴りかかろうとしたが、
しかし、動きが読まれていたのかそのまま交わされてしまう
そして―――そのまま仮面の人物は姿を消した


「…っ」
「…バン君…」


いきなり現れた敵
それがイノベーターの残党であることや、祖父を裏切った自分やユウヤを狙っている事は十分すぎるほどジンは感じた
そして―――


「最強の駒…」


たった一人の愛する人が操られ、敵に回ったということも
だが、ジンはそれでも…否、だからこそ戦わなければならない


「…ユウヤ、ヒロ」
「なに、かな?」
「はいっ」
「力を貸してくれないか」
ジンは二人に顔をまっすぐ向けてそう口にする
二人はその言葉に一瞬驚いた顔をして
「当たり前だよ」
「そうですよっ!」
そうジンに言う
その言葉にジンは微笑み、そして、次に壊れたトリトーンを見つめた


やるべき事はたくさんある
まずはトリトーンの修繕、そして敵の情報を集めること、
何よりも―――



「バン君…」



ジンは顔を上げて、そして見えない敵を睨みつけるかのように目を細めた
そして、


「待っていてくれ、必ず―――君を救ってみせるから」


今は遠くにいる、
とらわれている自分の愛しい人に向けて
そうつぶやくのだった―――