「…」
誰もいない部屋でベッドの中でそっと目を閉じる
体中が熱い
このまま溶けてしまうのではないかというほどには熱かった
「…まさか、熱を出してしまうとは…」
はぁをため息をついて
自分の額に手の甲を当てた
風邪を引くのは苦手だった
勿論、病気になることが好きな人間はいないだろう
「…」
幼い頃、家族を亡くして病院のベッドで眠っていた頃
さびしくてどうしようもなかったこと、
そして海道の家に引き取られた後も、爺や以外は誰も自分の心配などしてくれなかった
今思えば、祖父は風邪を引こうが、病気になろうが
おそらく自分が死んだらそこまでと思っていたのだろう
そう考えれば、自分に与えられたものは愛情でも期待でもなく
ただ駒として育てられてただけなのだと
だから、自分の中身はとても空虚なものだったと思う
それでも、自分よりも辛い思いをしていただろうユウヤのことを思えばそんなことを言うわけにもいかないが
何せ、自分は寂しさや悲しみは感じても身体に苦痛があったわけではないのだから
それでも…
「…」
それでも思ってしまう
誰かにそばにいてほしいと
誰かに慰めてほしいと
そんなものはかつてならけして手に入らないとあきらめていた
あるいはそんなものは必要ないと見ないふりをしていた
だけど、
今は―――
「…ジン、大丈夫?」
「…バン君」
そっと額に触れてくれる自分よりも冷たい、だけれど暖かくて柔らかなその手が心地よい
それと同時に彼の心配そうな顔を見ると
自分は好きな人にこんな顔をさせてなんて酷い人間なんだとも思ってしまう
早く治して、安心させてあげたい
「うん、大丈夫だよ」
そう笑って少しでも安心してほしかったが、
バン君はまだ心配そうな顔をしていて
「何かしてほしいことある?
ほしいものない?」
といってくれる
そんなことが不謹慎にも嬉しくてたまらない
「…うん」
「…本当に?」
「うん、バン君がいてくれるからほかに何もいらないよ」
「…っ」
あれ?
素直な気持ちを言ったらなんだか、バン君は顔を真っ赤にしてしまった
まるで林檎みたいだ
…可愛いな
「バン君、可愛い」
「う…うぅ、そんな事言わずに寝ててよ」
そういうバン君が可愛くてついつい頬が緩んでしまう
「……」
「ほら、寝てよ
ヒロ達が薬やご飯のおかず買いに行ってくれてるから」
「…ああ」
そう言ってくれるバン君の顔を瞼に焼き付けるように見つめる
それからゆっくりと目を閉じて
夢の中でも会えたらいいと思う
「…」
ずっと手に入らないと思っていた
暖かな自分の居場所
だけれど―――
今は…
バン君がいる
それにユウヤや、ヒロ、アミやカズ、ジェシカやランもいてくれる
それが何よりも嬉しい
「…」
願わくば―――
「…ジン、おやすみ」
少しでも長く、この場所にいたいんだ―――