創り上げる色彩の中で

「……」
「……」


お互いの顔を見てペンを走らせる。
ミソラ二中でもイケメンコンビとして名高い山野バンと海道ジン。
留学から帰ってきてより格好良くなったジンと
幼い顔つきから大人のものへと変化しつつある日に日に成長していくバン。
二人を見てどっちが好きかとうわさする女子も多い。
そんな二人が美術の時間にお互い向き合っていた。

周囲はちらちらと互いの顔を見ては、スケッチブックの上でペンを休み無く動かす二人の姿からいかなる絵が生まれるのかと胸をときめかせる。
「ジン、あの顔なんだけどこんな感じでどうだろうか」
「ああ、バン君僕も丁度顔が出来たところだ」
クラスメイト達はみな二人に注目しながら出来上がった絵に注目する。
だが、その絵は―――


「さすが、バン君芸術的な絵だね」
「ジンも凄いよ!」


二人はお互いの絵を見て賞賛しあう。
一体どんな絵だろうかと思ってみたがそこに描かれていたのは……


「じゃがいもに顔があるだけじゃねえか!」
「何なんだよ!それ!!」
「……これは、酷い……」
「何だか違う意味で才能があるわね二人とも」


丸いジャガイモのような形をした物体に目と鼻と口があるだけである。
これが一体ジンとバンなのか二人の友人は教えて欲しくてたまらなくなった。
しかし、二人は特に気にしていないようだった。


「バン君が僕を書いてくれたというだけで僕は嬉しい」
「ジン……オレも、ジンが描いてくれただけで嬉しいよ!」
「…っ……バン君」


そう言ってお互い見詰め合って何だかいい空気を醸し出す。
こんなカップルをもう一組知っているが、さすがその二人の弟子と兄分であると思いつつも、
二人が満足ならそれでいい……という問題ではなった。
何せ今回は美術の授業なのだ。
採点にも関係するし、何よりこんなクリーチャーを提出するわけにもいかない。


「二人とも一体お互いをどう見たらこうやって描けるんだ…」
素朴な疑問をリュウが口にすると、二人は不思議そうな顔をして
「こう?」
「こうだな」
といってお互いを熱っぽい瞳で見つめあう。
お互いの事をけして見逃さないように見ている事はよく解った。
そして、描く為の技術が身についていないという事も。


「まったく、仕方ないわけ
カズ、ちょっと描いたものを見せてあげなさいよ!」
「え?オレ!?」
「そうよ、早く!」
「……」
嫌だといいたいものの、ワイルドになったところでカズはカズ。
アミの命令にはそむく事が出来ずに、自分の描いたものを見せた。
カズが描いたものは確かリュウが描いたものの筈
そこには―――


「これは…」
「饅頭?」
「何よこれ」
「……酷い」
「カズ、これは無いよ」
「うるせぇ!!」
「カズぅ……」
「ああ、そんな顔で見るなよ、リュウ!!」


大きな饅頭がニットを被っていた。
「だ、大体、アミはどうなんだよ!」
「ちょ、何するのよ!」
そう言って、アミのスケッチブックをカズは見ようとする。
そこには―――
「…なんだこれ?」
「……私、こんな顔じゃない」
ミカを描いた絵はまるで卵が描かれており、そのから噴水のように水が両側から飛び出ているかのような絵だった
はっきり言うとへたくそである
ちなみにリュウの絵はまるで風車に似ているような気味の悪い物体が描かれており、
ミカは上手いがまるでピカソを思わせるその作風に誰も何もいえなくなった。
ようは皆揃いも揃って似たり寄ったりだったわけである。



「……しかし、これはどうしたらいいんだろうか」
「オレはジンがオレを描いてくれたって言うだけで嬉しいよ!」
「バン君……僕も……しかし、これはバン君というには」
「そう?」
そう二人はスケッチブックを見つめるがどう見ても顔のついたじゃがいもでしかない。
「……」
「……」
「確かにちょっとオレもこれがジンだっていうのはあれかも。
だって、オレの本当に見ているジンはもっと格好よいし」
「バン君…っ!」
そのバンの言葉に感動しながらも、ジンとバンはこれからどうやって絵を上手く描くか考えていた。
とりあえず練習しようと思ったものの、犬を描いては三角の物体にまるで潰されたスライムが出来たような絵にしかならなかった。
花をかいても色が識別できる程度でまるでヒトデに思わしきものが出来た。
次々とスケッチブックにはクリーチャーが誕生していく。
余りにも酷すぎるが、


「ジン、絵を描くのって割と楽しいな」
「そうだね、バン君」


二人はお互い並んで絵を描くというだけで楽しかった。
もっとも、そのまま山野家に泊まった二人のスケッチブックを見た真理絵はにこりと微笑み、
淳一郎は余りにも次々と繰り出されるクリーチャーに驚いて倒れてしまうという事をこのときの二人はまだ知らなかった。
二人のスケッチブックは終わりがクリーチャーで埋まり、結局二人がお互いの顔を上手く絵にかけたかどうかは…誰も知らない、二人だけの秘密。