僕の初恋を君に捧ぐ

「……そっか、本当に行っちゃうのか……」
「ああ、やっと世界の為に仕事ができるよ」


そう微笑んだジンの顔に自分もちゃんと笑いたいけれど、バンは出来なかった。
留学すると言われた時もとても辛かったけれど、
今回はそれ以上な気がする。
その理由をバンは理解していた。
13歳の自分よりも―――
18歳の自分の方がずっとジンの事を愛しているからだということに。
一年、一日、一分、一秒ごとにジンの事をどんどん好きになっていく自分がいる。
永遠に変わらない想いがあるというがそれは嘘だと思う。
『好き』な事がけして変わらないけれど、
『好き』の重いも、愛し方も、伝え方もどんどん変化していくのだ。
それ程までにバンはジンの事を愛していた。


初めて会った時はこんなにジンを好きになると、
恋人になると解っていただろうか?



否、知らなかった。
知っていたらきっと、こんなに愛せなかったとバンは思う。
解らないからこそ、人生は楽しくて、
辛くて、
悲しくて、
それ以上に愛しくてたまらないのだ、と。


「……ねぇ、ジン」
「なんだい?バン君」
「……頑張って、行ってきてね」
そう言って無理やり笑顔を作った。
「ああ、行ってくるよ」
「……うん」
そう言うと、ジンはバンにとろけるような笑みを見せた。
だが、一歩も動かない。
「……ジン……?」
「……」
「行かないの?」
「バン君が」
「え?」
「……」
何も言わずにジンは下を見ていた。
何だろうかと思っていると―――

「あ……」
「とても嬉しいのだけれど」
「ご、ごめん!!」


ジンの服の裾を握っているバンの手が会って、バンは慌てて離す。
「……こ、今度こそ行ってらっしゃい」
「うん」
「……がんば……」
頑張って、
そう言おうとしたけれど、
でも、言えなかった。
それは、今度こそさよならなんだと思ったら耐えられなくて涙が勝手に零れてしまったからだった。
「……バン君……」
「っ……ジン……」
本当は行かないでといいたい。
傍にいてといいたかった。
でも、言ったらジンが困る事は理解していた。
「……困ったな」
「……っ」
ほら、ジンが困ってるじゃないかと自分に言う。
だが、ジンが口にしたのはバンと思っている事とは違うことで――――
「そんな風にされたら攫って行きたくなってしまうよ」
「……え?」
そう言って、ジンはバンの事を思い切り抱きしめた
「じ、じ、じじじ、ジン!?」
「バン君」
ここ、人がいるよとか、
何してるのとか言いたい事はいっぱいあるけれど、
「……僕が神威大門統合学園でやることが終わったら、その時は―――」
それ以上に、
ジンが言った言葉が衝撃的で、
バンはその言葉で、

「結婚しよう」


何もかもがどうでもよくなった。
「ジン……」
「行ってくるよ、バン君。
大丈夫だよ、一秒たりとも君を想わない時はない」
そう言ってバンの唇をかすめるようにキスをする
「愛してる」
そう言うのも忘れないでジンはバンに微笑んで、
今度こそ、背を向けてジンは船へと歩き出す。
「……っ……オレもっ!」
そんなジンを見て、バンも大声を出した。
「オレもっ!!オレも、愛してるから!!」
もう、人がいるという事なんてどうでもよかった。
ジンにさえ届けばいいと思った。
「だから、……だから……っ!」
だから、待ってるだけなんて嫌だから。


「ジンが遅いと、オレが会いに行くんだからな!!」


そう言った言葉がジンに聞こえたかどうかは定かではない。
だが―――
ジンはバンにもう一度笑みを浮かべた。
それは見間違えではないとバンは思っている。
例え、船がすぐに出てしまって、一瞬しか見えなかったとしても―――――
「……っ」
愛する人の顔を見間違えることなどないのだから……





「―――なーんてこともあったけ」
そんな半年以上前の事をバンは想い出しながら、椅子に腰をかけていた。
「……でさー……あれ?」
「……アラタ、どうかしたの?」
紫色の制服の子と青色の制服の少年が歩いてくるのが見えた。
そして、バンを見て目を思い切り見開いた。
「……あなたは……」
「山野バンさん…?」
そう呟いた声に自分の事を知っているのかと思って照れくさいような、嬉しいような複雑な気持ちになる。
「……あれ?」
それと同時に二人の姿にバンはジンが電話で言っていたことを思い出す。
「あ、もしかして君達が――――と瀬名アラタ?」
「は、はい!!」
「そうです!!」
そんな幼くてかわいらしい態度にバンは自分が14の時もこうだったけと少しだけくすぐったい気持になりながら
「俺は山野バン。海道ジンは――――オレの友達なんだ」
心の中で


我慢できなくなったから、会いに来たんだよ―――ジン。
と呟いた。

それから、廊下の向こう側から大きな足音を立てて愛する人がやってくるまでのはたった数秒後のお話。