三倍返しを希望します

「サクヤ君、はい」
「え?何?これ」
いきなり渡されたチョコレート
意味が解らなくて首を傾げた
2月14日
バレンタインディ
「……」
いやいや、まさか
自分達は男同士だし、いくら仲がよくても…
そう思ってしまうが、顔の整ったタケルに首を傾げられて「いらない?」といわれたら最後、何も言えない。
「う、ううんうれしいよ」
そう言って受け取ると、
「受け取ったね?」
「え?う、うん……」
それがいったいどうしたんだろうか?と思っていると
「……」
「タケル君?」
なんだか嬉しそうにこっちを見ていて不吉な予感がした。
「一体何か―――」
「ううん、なんでもないよ?」
そう口にしたタケルの言葉。
明るいけれど、どうしても信用出来ない。
「……あの、タケル君」
「うん?」
「変なものとか入ってないよね?」
「入ってないよ?」
どうして?と首を傾げる姿は同じ男であってもうっとりするほと可愛らしかった。
古城タケルという人間は同じ男から見ても美形だと思う。
サクヤの周囲には出雲ハルキや星原ヒカルといった美形がいるが、
それと同じくらい、否、それ以上に古城タケルは顔が整っていると思う。
それこそ、同じ男だというのに見つめられると恥ずかしく思うほどに。
「さぁ、サクヤ君……一生懸命作ったんだ、食べて?」
「う、うん」
促されてサクヤは仕方なしにタケルから作った手つくりチョコの包みを開いた。
何で、ひそかに思いを抱いている同級生からではなくタケル君から?と思いながらも受け取る口をつける
すると、
「……っ」
「どう?」
「お……美味しい」
「本当?」
「う、うん」
「そっか、よかったぁ」
口の中で甘みが広がって、心のそこから美味しいと思った
「……」
そして、タケルに微笑まれて良かったと感じた
もっとも―――
その一ヵ月後……




「さっくやくーんっ!!」
こんなことがあったこと自体忘れていたサクヤは後悔することになっていた
「タケル君?」
「今日、何の日か覚えている?」
「え?」
「先月のこと覚えてない?」
「……?」
理解できなくて、CCSのカレンダーを見た。
3月14日。
なんも変哲も無い日だ
「……」
否、違う。
確か世間では―――
「サクヤ君?」
そう、ホワイトディだ
そして、サクヤは記憶を思い起こす
先月の2月14日にサクヤはタケルにチョコレートをもらった。
しかも美味しい……手作りの。
「……」
「……」
そこまで思い出してサクヤは理解した。
タケルが何を期待しているのか、
目線で何を訴えかけているのかということを。
「……た、タケル君…」
「なに?」
可愛らしく首を傾げて尋ねてくるその姿
でも、その瞳の奥には何かを期待しているように見えてサクヤは体を震わせる。
「……あの、」
「うん」
「僕、お返しとか用意してなくて…」
「うん、だと思った」
「……そ、そうなんだ」
サクヤはそれを聞いて少し安心した。
「…それに何か物をほしいわけじゃないよ」
「えっと」
じゃあ、何だというのだろうかと思ってしまう
「ただ、甘いものがほしいなーって思っただけだから」
「え、……っと?」
どういう意味だろう。
理解できなくてサクヤは上目遣いでタケルをじっと見つめることしか出来ない。
そんなサクヤをタケルは微笑んでいた
心なしか唇に目が逝っているようにさえ感じる。
「タケル、く、ん?」
「サクヤ君」
そう言って、サクヤの肩に手を触れてタケルはゆっくりと顔を近づけた
「……」
菫色の瞳と黒曜石の瞳がかち合う
「っ」
それだけでサクヤは動けなくなってしまった
「サクヤ君」
あともう少しで……だというのにサクヤは抗うことが出来ない。
サクヤには想い人さえいるというのに、
男同士だなんて考えた事が無いというのに、
だというのに―――
その瞬間は、


嫌だ、


とか


男同士なのに、


だなんて考えられずに―――
ただ、その瞳に惹きこまれていた