「僕、お母さんがいないんです」
何でこんなことを言ってしまったのかは覚えていない
ただ、バンさんやランさんがうらやましかっただけなのかもしれない
自分の寂しさを誰かに解ってほしかっただけなのかもしれない
すると、
「うん、僕もそうなんだ」
ユウヤさんはそう言って、
「同じだね」
そう僕の手を握ってくれた
「…」
それが何だか嬉しくかった
「一緒、ですね」
「そうだね」
それから、ユウヤさんは色々教えてくれた
今まで自分の人生が自分のものではなかったようだったこと
事故で両親を失った事
ジンさんのお陰で今の道を歩めた事
ジンさんとは親友であること
いろんな事を教えて貰って、ジンさんになんだか嫉妬してしまいそうな自分がいて、
いつもと同じく紅茶を入れて貰って
そして―――
気付いてしまった
自分はユウヤさんが好きなんだって事に
「…ロ、ヒロ…ヒロってば!!」
「は、はいっ!なんですか、バンさん!!」
今日もユウヤさん、ジンさんと一緒なんだなぁと思って、ついついぼーっと見ていると、
バンさんに声を掛けられていた事も気付かずにいた
慌てて振りかえるけど、バンさんは心配そうな顔で「どうしたんだ?」と尋ねてくる
それに対して「な、なんでもないですよ!!」と答えるけど、バンさんはそんなんじゃ騙されてくれる訳がない
それどころか、
「…なんだか、最近ヒロ…ユウヤとジンの事良く見てるね」
だなんて、確信めいた事を言われてしまう
「そ、そんな事ないですよ!」
「そう?」
「そうですよ!」
そういうものの本当はそうなのだからどうしようもない
だけど、此の気持ちは気付かれちゃいけない
だって、ユウヤさんは僕の事を弟みたいに可愛がってくれているだけなのだから
こんな気持ち、男同士で抱くなんて許される訳がない
そう思って、口にする
「でも…」
それでもバンさんは何か言いたそうで、ただこっちを見てくる
その瞳が全てを見透かしているようで
僕は怖くて―――
「…ぼ、僕!ランさんとジェシカさんのところに行ってきます!!」
そう言って、逃げ出してしまう
「あ、ヒロ!!」
バンさんに呼ばれるけれどそんな事構っていられない
「…っ!」
だって、こんなのバレたらきっと気持ちがられる
バンさんやランさん、ジェシカさんやジンさんにも気持ち悪い子だって思われて、此処にいられないかもしれない
それだけじゃない
それだけじゃなく―――
あの優しい人の好意を裏切ることになる
あの人の手をまた握られなくなると思うと怖くて、
「…ユウヤさん」
ポツリと貴方に届ける事の出来ない想いを抱いて
左手で包むように右手を握った
あの人が握ってくれた右手に、
かすかに残っているかもしれないあの人のぬくもりを捜して