ジンさんが羨ましかった
ユウヤさんにいつも頼られていて、
ユウヤさんにとってジンさんは戦う理由で
命の恩人で
何よりも大事な人で、
きっと僕なんかよりもずっと大切な存在
それだけじゃない、
「ジンっ!!」
そう言ってバンさんと一緒にいる姿が、とても様になっているから
一つだけ誤解しないで言うけれど、僕は別にバンさんに恋愛感情を抱いているわけではない
出来れば憧れだった
そして嫉妬の対象でもあった
だけれど、バンと一緒にいるのがうらやましいというのはそういう意味ではなくて…
二人の醸し出す恋人としての雰囲気というか…
まるで長年連れ添った夫婦のような空気が羨ましかった
「バン君」
ジンさんはバンさんの足音が解る
バンさんはジンさんにだけ特別な笑顔を見せる
二人は見つめあうだけでお互いの事を理解して、
お互いが何を望んでいるのか解る
手と手をとって歩く姿は誰が見ても恋人であって、
僕もあんな風にユウヤさんとなれたらいいなぁと思うけれど…もちろん無理に決まってる
何でって?
だって―――
「ジン君、バン君っ!!」
ユウヤさんが一番好きなのは僕じゃないもの
ジンさんが一番大切で、
次にバンさん、
僕なんて三番…
ううん、もしかしたら弟子のランさんや保護者的存在な八神さんもいるし、
ジェシカさんと仲良しだからもしかしたらずっとずっと下かもしれない…
アスカさんとかアリスさんとか女性にも人気があるし…
「…」
それに比べて僕なんて…
「…せめて、三番…ううん十番目でもいいから好きになってほしいなぁ…」
どうしたらいいのかな…
「…そうだ」
ジンさんとバンさんみたいになるには、まず本人に聞いてみればいいんだ
「…」
そしたら、きっとユウヤさんに頼りにされるようになる…よね?
うん、そうだと考え、僕は顔をあげる
だけれど、そこにはバンさんとジンさんと―――楽しそうに話すユウヤさんがいて
「…」
邪魔したら、悪いよねと思って三人が話してるところを邪魔しないように僕は部屋の隅に座る
「…」
ユウヤさん楽しそうだなぁ…
そりゃそうだよね、
僕なんかと話しても面白くないよね…
ユウヤさんは優しいから僕の話に付き合ってくれるけど―――
センシマンの話とかって実際つまらないのかな…
オタクロスさんみたいに乗ってくれるわけじゃないし、ただにこりと笑ってくれるだけだもんね…
あ、駄目だ
何だか泣きそう…
「…」
涙が零れてきそうなのを我慢して、僕は三人の背中を向けてどこかに走り出す
「…」
どうしようかと思って誰も来なさそうなところはゴミ捨て場しか思い浮かばなくて、
僕は倉庫の扉を開けて、そこに座り込む
「…っ…」
他の恋人みたいに手をつなぎたい
顔を合わせて笑いたい
何気ないことを話したい
欲を言えば、名前をもっと呼んで欲しい
バンさんとジンさんみたいに、もっと親密になって、
特別な笑顔を見せてほしい
僕の気配を感じてほしい
僕の事を―――一番に思ってほしい
でも、そんなの出来ない事
無理に決まってる
だから、望みは高く持たない
1番じゃなくていいんです
2番でもいい、10番でもいい
バンさんと、ジンさんを思い出すついででいいから、
時々でいいから、
僕の事を思い出してくれればそれでいい
「…う…うぅ…うぁ…」
ぽろぽろ涙があふれて仕方ない
「ゆうや…さ…ゆ…やさ…」
ユウヤさん
好きです
大好きです
ずっと好きです
でも、貴方と僕では釣り合わないことを知っている
だからいいの
ジンさんとバンさんのような恋人になれないことなんてとっくに知ってる
だけれど、望まずにはいられなくて、
もしかしたらなれるかもだなんて希望を抱いて、
頼ってほしいと思えてしまう
そんな僕を馬鹿と笑ってくれるだけでもいい
「っ…うぅ…」
そんなことばかり考えてどれくらい時間が経過しただろうか
流れる涙も出しつくして、
そしてもう帰ろうと思ったときだった
「…え?」
ドアノブを回してもあかない
「…うそ…です…よね?」
それはつまり…
―――倉庫に閉じ込められた、ということだった
バン君が羨ましかった
ジン君に頼られているところも、
皆の中心にいることも、
幸せそうなところも、
そして何よりも―――
ヒロ君にとって、彼はヒーローだった
ピンチを救うのはいつだって、僕じゃない
バン君だった
僕もあんな風になりたかった
だけれど、それ以上に羨ましかったのは…
ジン君と一緒にいるのが自然だということ
誤解しないでほしいのは僕はジン君が大好きだけれど、同じくらいバン君の事が好きだということ
あくまで命の恩人である二人が大好きで幸せになってほしいと思っている
でも―――
ヒロ君は、自分の手で幸せにしたかった
でも、僕にはできない
僕は彼のヒーローじゃないから
「…」
ジン君をバン君が幸せにしているように、
僕もヒロ君を自分の手で幸せにしたい
いつも笑っていてほしい
困った時にはいつでも駆け付けられる自分になりたい
そして、その横でいつもヒロ君に笑っていてほしい
「…ヒロ君は?」
夕食時、全員がそろっているというのにヒロ君がいない
何故?
そう思っていると、皆がヒロ君がどこにいるのかを考え始めた
「寝ているのかしら」
「否、部屋にはいなかった」
「レクリエーションルームには?」
「私、さっきまでいたけど誰も来なかったよ?」
「…誰も、見てない…の?」
不自然だ
ヒロ君は出かける時は誰かにちゃんと言うだろう
そう思っていると、ジン君が
「…どこかの部屋から出られないじゃないか?」
と口にした
「そんなわけないわ」
それに対してニックスの作ったものを馬鹿にされたような感覚を覚えたのかジェシカさんは反論する
「…でもさ、ヒロがここまで来ないのっておかしいじゃん」
とラン君が口にした後、バン君が
「…ちょっと、探してみようか」
と口にした
それに対してジェシカさんは少し不服そうだったけれど、
それでも全員で探すことにした
「…」
トイレ、脱衣所、風呂、レクリエーションルーム、リビング、操縦室…
ありとあらゆるところを手分けして探すけれど見つからない
「…」
「おかしいな、ヒロどこにもいないよ?」
「…まさか、外に出たのか?」
「そんなっ…ヒロに限って――」
どうして、いないんだろう
そう思って探すけれど、見つからない
やがて皆、ことの重大性が増してきてあわて始める
僕もどうしたらいいのか解らずにただ、ヒロ君が無事であるように祈るしかない
「…」
何が恋人だろう
こんな些細なことすら守れないくせに…
「---
「…あれ?」
「ユウヤ?」
何だろう、今かすかに…
「…ユウヤどうか―――」
「ごめん、静かに!!」
どうかしたのかと言おうとするジン君の言葉を遮って耳を澄ます
「…や…さ…く…ふ…」
この…声…
間違える筈がない―――
「こっちだっ!!」
「ユウヤっ!?」
ヒロ君の声だ
間違えない
「ヒロ君!そこにいるの!?」
ダックシャトルの―――存在の忘れ去られた倉庫のドアの前に立ち、そう声を大きく上げると
「…え…ユウヤさん…?」
「ヒロ君!!」
ヒロ君の声が聞こえて、よかったと心から思える
そのまま、ドアノブをゆっくりと回そうとする…が…
「え?」
あかない
ドアノブを回してるのにびくともしない
「……っ!」
一生懸命回すけれど、びくともせず―――
僕はなすすべなく、ドアをがちゃがちゃするくらいしか出来ない
「ユウヤ、どうかしたの!?」
やっと、僕に追い付いてきたバン君たちを見て、
「ヒロ君がこの中にいるんだっ!!」
と言うと、皆は驚いた顔をする
果てには―――
「…これ…自動ロックが解除されないようになってるわ」
「…え?」
そんな絶望的なことを言われて、僕は頭が真っ白になってしまった
「…とにかく、明日の朝まではロックが解除されない」
「…そんな…」
拓也さんの言葉に、ヒロ君はたった一人でここにいなきゃいけないの?
そう思っていると、
「あの…皆さん心配しないで下さい…」
「ヒロ!?」
ヒロ君がそう口にする
バン君は驚いた顔をしてヒロ君にそう言う
その声は少しだけ泣いているように聞こえた
すると、
「大丈夫です
明日の朝になったら出られるんですから…」
心配しないで下さいね?というヒロ君の言葉に皆どうしたらいいのか解らずにいる
だって、一人でヒロ君を残すことなんて出来ない
「…あの…」
「ユウヤ、どうかしたの?」
「僕、ここにいます」
「え?」
「ゆ、ユウヤさんっ!?」
それに対して一番驚いたのはヒロ君で
「だ、駄目ですっ!!ユウヤさん風邪ひいちゃいますっ!!僕なら…」
「僕が大丈夫じゃないんだ」
こんなとき、ジン君だったらバン君になんて言うんだろう
もっとスマートに言うんだろうなと思える
でも、僕はジン君のようになれない
バン君のようになれない
「…ヒロ」
「ジンさん?」
「ユウヤは言ったら聞かないから…ここに居させてやってくれないか」
今だってそう
ジン君に助け舟を出してもらってる
「…でも…」
「お願い」
「…寒かったら戻るから」
「………約束、ですよ?」
でも、どんなに格好悪くても、
君が好きな気持ちは同じだから
「…」
それから誰もいなくなって、
「ヒロ君、寒くない?」
「は、はい…」
扉越しにヒロ君に声をかける
「…」
「…」
それからお互い黙り込んでしまう
本当は色々聞きたいことがある
どうしてこんなところにいたの、とか
どうして泣いていたの…とか
「…ごめんね」
「え?」
「格好悪くて」
だけど、一番言いたかったのは―――
「本当はバン君とジン君みたいに支えあえたらって…
ヒロ君が困った時にいつでも助けられる人になれたらいいんだけど…」
「そ、そんなことないですっ」
「…ヒロ君」
「ユウヤさんは…格好良い、ですよ…?」
「…でも、恋人にはふさわしくない…よね?」
「え?」
「いつも、ジン君とヒロ君みたいになりたいと思ってたんだけど…」
「…」
「まだまだ―――」
「僕も…」
駄目だよね、と言おうとすると、
「え?」
何かヒロ君が口にした
何だろうと思っていると、
「僕もバンさんとジンさんが羨ましかったです」
「ヒロ君…?」
「あんな風に通じ合えるようになりたかった」
「…」
「でも…でも…」
そう言って泣きだすヒロ君の声を聞いて
扉が邪魔で抱きしめることすらできないのが悔しい
でも、
声は確かに届くから
だから―――
「好きだよ」
「…」
「世界で一番ヒロ君の事が好きだ」
「嘘」
「…嘘って…どうしてそう思うの…?」
「だ、だって…ユウヤさんは…その…」
「うん?」
「僕よりも…ジンさんとかバンさんとか…」
「…えっと…?」
「その…好きな人がいるんじゃないかって…」
「…え?」
「…あ、あの、それでもいいんですっ別に―――」
「…」
「…その、うんと…ごめんなさい…」
「…」
ああ、そっか
僕達って―――付き合ってるけど、だけど…
「ヒロ君」
「は、はいっ」
そうだよね
バン君やジン君みたいになりたいとか
それよりも―――
もっと大切なことがあって、
「…ヒロ君の事が世界で一番大好きだよ」
ちゃんと…自分の気持ちを伝えなきゃいけなかったんだ―――
「え…」
「ねぇ、ヒロ君
ヒロ君の事もっと教えてよ」
「あ…あの…」
「僕もちゃんと信じてもらえるまで言い続けるから」
「…」
「ヒロ君が好きだって」
大丈夫
時間はまだまだある
だって―――
朝まではまだ時間があるんだから―――
「…ヒロ、大丈夫かな?」
「…ユウヤ…」
二人が心配で慌てて倉庫に向かう
多分ロックはもう外れているはずだけれど―――
「…あっ…」
「心配する必要はなかったみたいだな」
そう思ってやって来て見ると…
「…ちょっと羨ましい…かも…」
ユウヤに抱きしめられて寝ているヒロがいて、
きっと会えた瞬間に気が緩んじゃったんだろうな…だなんて思ったら少しだけ微笑ましかった
「そう、だな」
「ねぇ、ジン」
「うん?」
「オレ達も二人みたいになれたらいいよな―――」
そう二人の事をオレとジンが思ったことは内緒
後に―――
二人がオレ達の事を羨ましいと思ってたと知るのは――また、別のお話