「…」
「ごめんね…」
ユウヤさんが風邪をひいた
「いいえ、気になさらないで下さい」
ダックシャトルの中、皆さんは出かけてしまわれて今は僕とユウヤさんの二人きり
「今日は何でもしますから、是非僕にがつーんと甘えて下さいねっ!」
料理はあんまり出来ませんが掃除洗濯はできますから!というとユウヤさんは「ありがとう」とほほ笑んでくれる
それを見ると頑張るぞー!!という気持ちでいっぱいになる
「で、ですね…ジェシカさんの作ったお粥があるのでどうぞ」
「うん…」
だけど、そんな気持ちをユウヤさんに見破られるわけにはいかないので
早まる気持を抑えて僕はユウヤさんにお粥を渡す―――けれど、
「…あ」
スプーンを持とうとして、がしゃんと落としてしまう
「あ、す、すいません…」
僕の渡しかたがまずかったんですね、と言って洗ってくるけれど――
「…あ」
また、がしゃんとユウヤさんはスプーンを落としてしまう
「…」
もしかして…
「力…入らないですか?」
「ごめんね…」
そう言って、ユウヤさんは困ったように笑う
「ちょっと待っててくださいねっ」
そう言って僕はスプーンを洗ってすぐに戻ってきて
そして―――
「…ユウヤさん、どうぞ」
「…え?」
ゆっくりとお粥を掬ってユウヤさんの口元に運ぶ
「はい、あ、あーん…」
こうでいいのかな?と思ってると
「ヒロ君?」
ユウヤさんは風邪のせいか、顔を真っ赤にして僕の名前を言う
どうしよう、風邪酷くなったのかもしれない
「…あの…食欲ないですか?」
「そ、そんなことないよっ!」
そう言ってユウヤさんはおそるおそる口を開けてくれる
「…はい、どうぞ」
そう言って僕はユウヤさんの口の中にお粥を入れた
ユウヤさんの綺麗に並んだ白い歯がゆっくりとお粥を噛み砕き、ごくりと喉を通る音が聞こえた
「はい、どうぞ」
それを見て僕はもう一度お粥を口に運ぶ
「あ、あーん」
「あーん」
ゆっくりと無くなっていくお粥を見て、少しはお手伝いできてるのかなと思うとほんの少し嬉しくなる
「おいしかったですか?」
「う、うん…」
その言葉にホッとして、
「それじゃあ、下げてきますからユウヤさんはゆっくり寝てて下さいね」
空っぽになったお皿を見て僕はそれを持って部屋から出ていく
「う、うん…お休み」
「また後で来ますからっ」
良かった
少しでもユウヤさんのお役に立てたなら―――嬉しいなぁ…
「…あれは反則だよ…ヒロ君」
だから、僕は何も知らなかった
後から聞いて、
あの時顔を真っ赤にしたのが―――実は熱のせいじゃなく、恥ずかしからだったからだと知るのはまた後のこと―――
「…」
汗がびっしょりで気持ち悪い
起きてすぐに思ったのはそのこと
ゆっくりと起き上がると
ちょうど入ってきたヒロ君と目があった
「あ…ユウヤさん起きちゃいました?」
「う…うん…」
汗で気持ち悪くてねと言うとヒロ君はびっくりさせて
「少し待っててくださいっ!!」
と言って部屋を出ていく
「え…?」
呆気をとられてどうしたのだろうと思っていると
ヒロ君は洗面器とタオルを持ってきて
「ユウヤさん、体拭きますね」
とにこりと笑ってくる
「…え?」
本日二度目の驚きである
ってか、ヒロ君に体拭いてもらうとか!
僕、正直我慢できる気が…
否、風邪でそんな体力もないけどっ
でも、でも…っ
「じ、自分で拭くよ…」
「…え?」
ど、どうしてそこでシュンとしちゃうの―――っ
「そう…ですか…」
「えっと…あの…」
そう言ってヒロ君は僕の手の届く位置に洗面器とタオルを置いてくれる
「…」
ど、どうしよう…僕何か悪いことしたかな…
えっと…えっと…
「や、やっぱり拭いて貰おうかな…」
仕方なしにそう言うとヒロ君は顔をあげて、そして
「はいっ!!」
実に可愛らしい笑顔でそう言ってくれる
眩しいっ…眩しいよヒロ君…っ
「じゃあ、服脱がせますね…」
「う…うん…」
……
え?
今なんて…
そう思って顔を下に向けると…
「…っ!!」
ゆっくりと僕のボタンをはずしていくヒロ君の姿が…
な、なにこれ…
ご、拷問…?
ヒロ君の馬鹿!!君は天使のように可愛いのに時々小悪魔系だよね…
うう、邪気ひとつないのが憎いよ
これはアリス君に教えてもらった許しませんノートに書くべきなのかな…
って、そんな事はどうでもよくて…
「っ…」
最後のボタンが外されて、ヒロ君は僕の顔を見て―――
「…ユウヤさん…」
「う、うん…」
「背中、見せて下さい?」
「…え?」
せ、背中…どうして?
そう思ってると
「え、だって背中は拭けませんよね…?」
「…あ、……あ…あぁ!!」
そっか、体って…背中の事を言ってたのか…っ
「う、うん、背中だけやってくれたら他は自分で拭くから!!」
「はいっ」
そう言って後ろをヒロ君に向けて僕は自分の思っていたことがどれだけ見当外れか解って恥ずかしくなる
ゆっくりとヒロ君の手が僕の背中に触れる
「…っ!」
後ろに当たるタオルが熱い
暑くて出た汗を拭きとってもらってるのに―――何故か、ヒロ君に触れられていると思うだけでとても熱かった
「かゆいところないですか?」
「うん」
「痛くないですか?」
「うん、ちょうどいいよ」
ゆっくりと丁寧にヒロ君が僕の背中を拭いてくれる
円を描くように背中を拭いて、脇腹も拭いてくれた後
「どうぞ」
と言って僕にタオルを渡してくれて
「ありがとう」
僕はタオルを受取って自分の体を拭いた
全部終わって
「ありがとう……ヒロ君…?」
ヒロ君の顔を見ると、何だかヒロ君は困った顔をしていて
何だろうと思っていると
「…何か、してほしいことないですか?」
と尋ねてくる
「…特にないけど…」
そう言うとヒロ君はシュンと落ち込んだ顔をする
何だろうかと思ってると
「…僕、ユウヤさんの何か力になりたいんです…」
と言ってくる
「…」
「何かないですか?」
そう言ってくるヒロ君はとても可愛らしくて
僕の為にそんなに悩んでくれているのかと思うと不謹慎だけど嬉しく思えてしまう
「…あるよ」
「え?なんですか?」
「うん、耳貸して?」
「は、はいっ」
「ねぇ、ヒロ君」
「はい」
「 」
だから、僕は実はずっとしてもらいたかった事をヒロ君に告げる
「え…ええっ!?」
「ヒロ君にしか出来ない事なんだ」
「…ぅ…」
そう言うとヒロ君は頬を真赤にして――
「わ、わかりました…あの…目、閉じてて下さい…ね?」
と言ってくれる
そして、僕の唇にヒロ君は自分の唇を重ねてくれて―――
それから…
「…おやすみなさい」
僕の頭に手を置いて優しい顔をして、ゆっくり撫でてくれた
それから、
「良い夢を」
と言ってそのままバタバタと音を立てて部屋の外へと出ていく
「…」
その姿も可愛くて、
触れた唇が熱くて、
撫でられた頭にぬくもりが残っているように感じる
「…はやく、風邪治さなきゃ」
そう考え、僕は目を閉じて再び眠りの世界に旅立つ
ヒロ君のお陰で今日はいい夢を見られそうだ
『ねぇ、ヒロ君』
『は、はいっ』
『いい夢が見られるようにお休みのキスしてくれないかな』