なにも知らなかった
ヒロが山野博士からAX-00について聞かされた時に思った事はそれだった
イノベーターという敵がいた事も、
ユウヤがそこにいたという事も
何もユウヤは教えてくれなかった
いつも、いつも優しい笑顔で自分に接してくれるだけ
その好意に甘えてきたのだと初めて知った
こんなに優しい人が悪の組織にいたのだ
だから、とてつもない理由があるに違いない
そう考える
しかし、それ以上にヒロが思ったのはなぜ教えてくれなかったのだろうという事
ユウヤはなぜ、自分に伝えてくれなかったのだろうか
いつも、いつも自分ばかりがユウヤにいろんな事を伝えていた
センシマンが好きな事、
LBXは初心者であること
でも、バンに会ってLBXが大好きになったこと
母親とは離れ離れで暮らす事が多かった事
アスカから貰ったトマトジュースが美味しかった事や
ジェシカに作って貰ったご飯を皆で食べる事が好きである事
そして―――
ユウヤが好きだと言う事
思えば、ヒロはいつも自分ばかりがユウヤに思いを伝えていた気がした
ユウヤは優しく頷いてくれたから思いが伝わったと信じていた
しかし、ヒロは思う
それは全て自分がそう思っていただけなのではないかと
本当は、ただユウヤは頷いただけで、
実際は自分の事をなんとも思っていないのではないかとヒロは感じた
だとしたら―――
自分は単にユウヤに気持ちを押しつけていただけであるとヒロは考えた
だったら…
「…ユウヤさんの力を借りなくても―――」
ちゃんと立てるようにならなければならない
そう思い、ヒロはゆっくりと立ち上がる
「…」
ジンやバンのように強くなれば、ユウヤも自分を好きに…とまではいかなくても
きっと頼ってくれるだろう
そうヒロは考えるのだった
「…あ、ヒロ君」
そう思っていると、タイミングよくヒロにユウヤが話しかけてきた
「あ…ユウヤさん」
ヒロはにこりと微笑んで、ユウヤの名を呼ぶ
「丁度良かった
ヒロ君一緒にメンテナンスしよう?」
そうにこりと笑ってくれるユウヤ
それに対してヒロも「はい」と口にしようとしたが
それではいけないと考え
「だ、大丈夫ですっ」
「え?」
ユウヤに向かってそう口にする
「ぼ、僕…ひ、一人でできますから…」
「ヒロ君?」
そう言ってヒロはユウヤににこりと笑って走っていく
それを見てユウヤは一体なんだろうと思いながらヒロの背中を見つめた
「…もしかして…」
そんなヒロを見て、ユウヤは先ほどの会話を思い出していた
自分がイノベーターである事をユウヤは明かした
今までヒロとは仲が良かったものの、それは自分の過去を知らなかったからだ
例え操られていたとはいえ、
ヒロは悪の組織にいた自分を許してくれないのではないか
そうユウヤは考えた
だとすれば―――
「…ぼく達、破局しちゅう…のかな…」
今までずっと好きだと言ってくれたヒロはもう自分を好きだとは言ってくれないのではないかと考え
ユウヤは内心動揺が隠せなかった
違う、大丈夫
そう言い聞かせるものの、どうしても大丈夫な保証などなく、
ユウヤはこれからどうしたらいいのだろうと思う他なかった
そんなユウヤの心も露知らず、ヒロは一人で頑張ろうと必死になっていた
その後もユウヤが何か助けようとする度に大丈夫ですと断る
そう言われてはユウヤも何も言えなくて、結局どうすればいいのか解らないまま時が流れた
「よしっこれで大丈夫っ」
そう言って、ヒロは頼まれていた事を全て終わらせ満足気な顔で微笑んだ
最近は自分一人でちゃんと行えている
これならユウヤも自分を見直してくれる筈だ
ヒロはそう考えていた
それと同時に
「…頭を撫でてくれなくなるのは寂しいな」
そんな気持ちがあるのも事実だった
ユウヤに頭を撫でられるのはヒロにとってとても大好きな行為だったから
だから、少し切ない
けれど、それ以上に頼ってほしい
そう考えている
だからこそ、これでいいのだと思っていた
しかし―――
「…あれ?」
はぁ…とため息をついて何か上の空でユウヤが何か考えているのが見えた
「…」
それを見て、ヒロは自分には何も結局言ってくれないのだろうかと考える
だが、すぐに今なら!と考え、
「ゆ、ユウヤさんっ!」
「ヒロ君…?」
ユウヤの名前を呼んで駆け寄る
そんなヒロをユウヤはじっと見つめていた
「あ、あの、悩み事ですか…?」
「え…あの…」
「も、もしよければ僕に話してくれませんかっ!」
そう大きな声でヒロは言う
だが、ユウヤは―――
「な、なんでもないよ」
とぎこちない笑みを浮かべる
そんなユウヤを見て、ヒロは…
「…え、え…ひ、ヒロ君…?」
「どうして…」
「え?」
急に泣きだしたヒロを見てユウヤはおろおろと動揺していた
しかし、ヒロはそんなユウヤを気にせずに
「どうして、僕に何も言ってくれないんですか」
と口にする
僕、頼りないですか?という言葉にユウヤは動きを止めた
「…この1週間…短い間だけど、少しでもユウヤさんに近付けるように
自分一人でなんでもしようって…でも…」
「え?」
「駄目、だったんですね…」
そう言って、ヒロは自分自身にお前はユウヤの悩み事すら打ち明けて貰えないのだと告げた
そして、それはそのまま自己嫌悪になり、涙を溢れださせる
そんなヒロを見て、ユウヤは…
「…ヒロ君…」
「ご、ごめんなさい…
僕、ユウヤさんの過去を聞いてそれで…」
「…」
「少しでも頼ってほしくて…」
そうか細い声でヒロは口にする
もっとユウヤさんの事を知りたくて、教えてほしかったんです
そう言うヒロの頬は林檎のように赤くなっていた
また、そんなヒロを見て、ユウヤは自分が嫌われた訳ではないと知りほっとする
そして―――
「ヒロ君、ありがとう でも…ぼくはヒロ君には教えたくなかったんだ」
だからこそ、ユウヤは素直にヒロに自分の想いを伝えた
その言葉にヒロはまた涙を落す
しかし、
「だって、毎日が楽しくて
ヒロ君との日々を覚えるのが忙しいから
そんな辛い出来事は少しでも忘れたかったんだ」
「…ユウヤさん」
「ヒロ君が好きだから、そんな過去は教えたくなかったんだ」
でも、それが逆にヒロ君には辛かったんだね、ごめんねとユウヤは口にする
そんなユウヤを見て、ヒロは
「本当ですよ」
と言って泣きながら微笑んだ
「…ぼくは、どんなユウヤさんでも知りたいんです
だって…好きな、人だから」
そう言ったヒロの言葉は何よりも綺麗な音楽としてユウヤの耳に届く
「ヒロ君」
「はい」
「…ありがとう」
そして、その言葉はユウヤにとっては救いだった
例え、どんな事があってもヒロは自分を受け入れてくれるのだと
そんなヒロがとても大切なのだとユウヤは感じる
「でも、あんまり早く大人にならないでね?」
「え…」
「もっと、もっと自分に頼っててほしいから
そう素直に素直に思いを伝えるとヒロはくすくすと笑った
そんなヒロを目を細めてユウヤは見つめた
それから
「…ヒロ君」
「はい?」
ユウヤはこの思いを少しでもヒロに伝えたくて、ヒロの名前を呼び
それから、
「世界で一番君が大好きだよ」
今までいつでも離れられるように言わなかった言葉を口にした
するとヒロは―――
これ以上程ない笑顔でにこりと微笑み
そして、
「ユウヤさん、僕も、
僕もユウヤさんの事大好きですっ!!」
ユウヤに自分の好きを伝えようと―――思いきり抱きついて微笑むのだった