君をば待たむ

「おい」
 クロエは話しかけられてびくりとした。
 他の西の魔法使いは平気で北の魔法使いと関わるがクロエはどうにもそうはいかない。
 よくシャイロックのバーで話していたり、ラスティカなどは音楽会に誘っているが。
 クロエはいきなりブラッドリーに話しかけられて驚いた。
「ブラッドリー?どうかしたの?」
 正直遠目で格好良い人だと思ってはいる。けれど話せるかどうかは別だ。クロエは声が震えていないかどうか考えていると、
「頼みてえ事があるんだが、お前仕立て屋だろ」
「う、うん」
 自分の服を作って欲しいと言うのだろうか。割とこういった依頼は多い。クロエはセンス良い為、多くの人間に意見や依頼を頼まれる事は多かった。  だからそういったものだろうと思っていた。話を聞くまでは。
「実は―――」



 ムルではないけれど、ミチルは≪大いなる厄災≫にいけないと思いながらも親しみを覚えていた。
 月を恐いものだと言うけれども、どこか優しい、力を与えてくれるような存在に感じてしまう。手を伸ばすなと言われながらも伸ばしたくなるような気持ちになるのだ。
 リケのような夜の散歩や、ムルのように月を眺める趣味があるわけではない。
 それでも、ミチルはよく月を見る。北の魔法使いが任務に出た時もずっと見ていた。
「くしゅん」
 今日も、北の魔法使い達は賢者と共に任務に向かっていった。くしゃみをしながらミチルは夜空を見る。
 帰ってきたら、ご飯を食べて、そしてお風呂に入って欲しい。怪我してほしくない。そう思いながら。
 前に比べて素直に「心配している」というほどには仲良くなった。
 今回は大した任務ではないと言っていたし、今日中に戻ってくるかもしれない。そう思って中庭で待っていた。クロエが作ってくれたケープを羽織って。
 ブラッドリーが毎回毎回、夜まで待っているミチルを見かねてかクロエに頼んでくれたものらしい。
 最初にバレた時は風邪を引くから寝てろと言われたが、二回目以降ブランケットを羽織っているので平気だと思ったがそれもため息を吐かれた事があった。
 賢者から任務の依頼が来てクロエに頼んでくれたらしい。
 ケープにしてはやけに豪華ではあるが、着た姿を見せれば「似合う」と皆が褒めてくれたし、何よりブラッドリーが頼んでくれたという事だけでミチルには満ち足りたものがあった。
「……っ」
 皆無事だろうか。怪我していないといい。否、北の魔法使いは殺し合いが始まるほうが心配なのだが。
 夜空を見上げていると待ち望んだ影が見えて、ミチルは駆け出す。


「賢者様、皆さん、お帰りなさい!」


 そう言えばどんな顔をするだろかと思いながら。