「よさんか、二人とも仲良く!」
「問題ありませんよ、俺にあなたは勝てません」
いつもの北の言い争いだった。
お互い顔を合わせれば殺し合う。それが一種の北の挨拶のようなもので、流儀でもあった。
「はっ、勝算ならあるさ」
「なんです?」
「以前も言ったろ?南の兄弟を人質にとればいい。そうすればお前は身動きを取れなくなる」
「……へぇ」
ミスラへの言葉に、感心したように目を細めたのはオーエンだった。
「なんだよ」
「別に?ただ、出来もしないことをよく言えるな、と思ってさ」
「はぁ?まさかあの南の兄弟に俺が勝てないとでも?」
さすがにバカにしすぎだ、挑発だと解っていても敢えてブラッドリーは乗らずにはいられない。
あのあまりにも弱くて、下手すると人間相手でも殺されてしまいそうな相手に自分がやられるはずがない。
そんなことはオーエンもわかっているし、冗談にも出来ないことくらい解ってる。
だから、オーエンの冗談だ、と思ったのだ。
その時は。
「出来るわけ?」
「出来るに決まってるだろ」
「ふぅん」
オーエンの形の良い唇が口角を上げる。
いつものように嫌味たっぷりな笑顔で、でも、そこ口調はいつもの嫌味じみたものではなかった。
「お前には無理だよ」
「……」
「ルチルはともかく、だって、」
その先の言葉は思いもよらないものだった、
「おまえ、ミチルのことは気に入ってるじゃない」
「……」
「ルチルは殺せても、お前はミチルを殺せないよ」
「ルチルも殺させませんけど」
「そうだね、あんな弱い魔法使い殺したって何の得にもなりはしない」
そう言って、オーエンは話を切り上げた。
「もう、この子達ってば!」
「これ以上揉めるならお仕置きだからねっ!」
怒ったふりを楽しんでいる双子の声を二人は忌々しそうに顔を顰めていた。
けれど、ブラッドリーからしてみればオーエンの言葉が気にくわなかった。
”お前はミチルを殺せない”
――――――殺せるさ。
自分を裏切った部下も、
一晩共にした魔女も、
一緒に戦った賢者の魔法使いだって、
気にいらなければ殺してきた、そうすることが北の魔法使いの当たり前だったからだ。
それが少し気に入ったからといって、殺さないだなんて思われるのは心外だった。
けれど、同時に野垂れ死になりそうになったら拾ってやって、生き方を教えて遣っても良いと思ったのも事実だ。
ミスラの弱点だと解っていても、手元に置いておくのもいいかとも思ってしまう。
南の国ではなく、北の国に放り込んで、雪の中笑うミチルを見て見たいかどうかと聞かれたら―――――
そこまで考えて、思考を止めた。
もしもそうなった時、フィガロは、ミスラはどうするのだろうか。
自分は、何故沢山の手の中から自分の手が握られると思っているのか、それを考えると本当に殺せなくなりそうだった。
MURDER=まだ、という逆なタイトルでした。ボス、結構ミチルのこと気に入ってるから殺せなさそうなんですけど……とアニバを読み返して思ったことでした