頬紅散らす横顔

「シノってヒースクリフのこと、恋愛的な意味みたいで好きみたい」

 シャイロックの酒場でルチルと一緒に会話をしていたクロエはフィガロの言葉に驚いた。
「ええええ、そ、そうなの!?」
「え?うん、だって好きな人がいるって言ってたよ」
 何でも無いように言うフィガロにルチルは「まぁ」と口に手を当てて、
「フィガロ先生、シノは好きな相手がヒースクリフって言ったんですか?」
 と尋ねる。
「うーーーん、言ってはいなかったけど、でもシノが好きな相手なんてヒースクリフ以外いないでしょ」
 さもそれが答えであるかのように言うフィガロにルチルは「ダメですよ」と言う。
「フィガロ先生、ちゃんとシノが言ってないことを本当のように語るのは」
「えぇ……ごめんごめん、ルチル」
 シノの事なんて何でも無いように言うフィガロに、本当に単に世間話程度だったんだろうな、とクロエは考える。
「ねぇ、シャイロック」
「はい」
「あの、フィガロが言ったことって本当だと思う?」
 クロエはこそっとシャイロックに尋ねる。
 すると、シャイロックはにこりと笑って、
「さぁ」
 と言う。
 一見すると投げやりなその行動。
 けれど、シャイロックがすると気品が溢れて見えるから不思議だ。
「でも、ルチルの言う通りだと思います」
「ルチルの?」
「シノが言ってもいないことをこうだああだと勝手に予想を立てて騒ぎ立てるのはよろしくないかと」
「……そっか、そうだよね」
 確かにフィガロの言うようにシノにとっての一番はヒースクリフだ。
 いつでも傍にいて、彼が幸せになることを必死で頑張っている。
 けれど、クロエの目から、シノの幸せは?と思う事もあった。


 クロエはヒースクリフが好きだ。
 でも、同じくらいシノのことだって好きだ。
 幸せになって欲しいと素直に思っている。


「シノの好きな人って、どんな人なんだろう」


 明日、聞いて見よう。
 シノは答えてくれるだろうか、それとも秘密だ、といたずらに笑うだろうか。
 どっちでもいい。
 クロエは西の魔法使い。
 恋のお話が大好きなのだから。



 翌日、ルチルに「ねぇ、ルチル」と話かけた。
「どうしたの?」
「あのね、昨日の話なんだけど……」
 朝起きて、おはようと言って、一番仲良しのルチルと一緒に廊下を歩く。
「昨日の?」
 なんだろう?と首を傾げるルチルの仕草が可愛いな、などとクロエが思ってると、
「シノの好きな人の話!」
 とルチルに話す。
 ルチルは「ああ」と返事をしてくれた。
「あのね、あのね、シノに直接好きな人が誰か聞いてみない??」
「まぁ、とっても素敵!」
 キャッキャと2人で盛り上がってる時、
 ドンと鈍い音が聞こえた。
「……?」
「?」
 2人が慌てて振り返るとそこには血相を変えたヒースクリフがいた。
「おはよう、ヒースクリフ!って…」
「おはよう、ヒース……って顔色悪いよ!」
「あ……えっと……おはよう……えっと、その……」
 血の気が引いた顔をヒースクリフがしている。
 どうかしたのだろうか、と思っていると、震えた声でヒースクリフが話し出す。
「……あの、今……」
「え」
「シノが好きな人がいるって……」


「「あ」」


 その反応にヒースクリフは知らなかったのだ、と2人は目を見開いた。
 逆に何故フィガロが知っているのかも謎だが、とにかくヒースクリフはシノの好きな相手どころか、そんな人がいた、という事実も知らない様子だった。
「……」
 そのことを聞かされたヒースクリフはショックだった。
 先程まで久しぶりに自分一人で朝起きられて、おさななじみを驚かせてやろうと思っていたのに、高揚した気持ちが一気に下落するのがわかる。
「ま、まぁ、フィガロ先生の勘違いかもしてないし……」
「そ、そう!」
「……っていうかなんでフィガロが知ってるんだろう……」


 素直に顛末を話すと、ますますヒースクリフは落ち込む。
「……フィガロ先生は、相手がヒースなんじゃないかって言ってて」
「え」
「だから、ヒースには言えなかったのかなって……でも、」
 その答えにヒースの気持ちが少しだけ高揚する。


 シノがヒースクリフを好き。


 そうだったら、いいのに、と少しだけヒースクリフは思う。
 いや、でも自分とシノは友達であって、別に恋人になりたいわけじゃない。
 だから、その言葉にブンブンと首を振る。


「本当の事はシノにしか解らないから、憶測で物事を言っちゃダメだよね」


 そう言ってくれるルチルの言葉は自分の心も咎める。
 そうだ、シノの気持ちはシノにしか解らない。
 だから、憶測で言ってはいけない。


 どっちにしろ、シノに聞かなければ、そう思ってヒースクリフは二人に並んで食堂へと向かう。
 きっとネロが美味しいご飯を作ってくれている筈だ。


 食堂に入り、「おはよう」と挨拶すれば、すでにいる賢者の魔法使い達が返事をしてくれる。
 いつものようにネロの手伝いをしているリケやミチル、鍛錬組のレノックスやカイン。
「よぉ、みんな!おはよう!」
 カインの挨拶にいつものようにハイタッチをする。
「おはよう、カイン」
「おはよう!」
「おはようございます」
 タン、タン、タン、とそれぞれハイタッチをしたところで、二人の隣にシノがいない事に気付く。
「あれ、シノは?」
 どうしたのだろう、と思っているとレノックスが口を開く。
「シノなら、ネロの手伝いをしている……」
「ネロの?」
 どうしたんだろう、とヒースクリフは不思議に思って食堂から入れる台所を覗く。


 おはよう、と挨拶しようと思った。
 ただそれだけ。
 だけど――――――


「……ネロ」
「うん」
「洗い終わったぞ」
「おぉ、ありがとうな」
 軽い会話。
 きっと朝ご飯で使った調理道具を洗っている。ただそれだけ。
 なのに、


「……」


 シノはそう言われただけで、


「―――――――っ」


『シノがヒースクリフを好き』


 違う。





 違う。
 違う違う。
 違う違う違う。
 違う違う違う違う違う!!


   もしそうならば、あの笑みはなんだろう。
 見た事がない。
 シノの、あんな笑顔、ヒースクリフは見た事がなかった。
 あんな、はにかむような、花がこぼれるような笑顔を。


「……」
「そろそろ、ヒースを起こす時間じゃねえのか?手伝いはここまででいいぞ」
「本当だ、行ってくる」
「……」
 ネロに言われた瞬間、シノはいつもの表情になってた。
「……あ、あの!」
「うん?」
「ヒース!起きれたのか!」
 珍しいな、と嬉しそうにシノは駆け足でやってくる。
 その様子に、ヒースクリフは安心した。


 良かった。
 俺のシノだ、と思ったところで自分の醜い考えが解ってしまう。


「おはよう、ヒース」


 そう笑うネロの顔が見られない。
「……ヒース?」
 シノの顔も。


 ヒースクリフは一人で自分が思ってる事が恐ろしくて、二人が言う綺麗さなんてないことに気付いてしまった。


 余りにも、醜すぎる感情だった。  


 

ネロシノというよりは、シノ関連のCPを書く以上はヒースクリフの無意識の独占欲をちゃんと書かなきゃなと思っていて、  それは見る人に寄ってヒース→シノでもいいし、友達としての独占欲でもいいし、そこはこれが答えというものはないし、おそらく公式もそうなのだと思います。
<> ただレノックスのストーリー見て、自分は称号=カップリングと思っていないし、特別な感情=恋愛と固定しなくてもいいと思っているので、
そこは読んで下さる方にお任せしています。まぁ、称号=CPの人もいると思うので……(そんな人がこのサイトに来るんだろうか)まだ、続きます!