フィガロが寿命で死んだ。
双子も同じく。
復讐する意味のなくなったのだから、約束なんて意味がないと言っても聞き入れることはなかった。
「……」
ぼんやりと、ミチルが泣くな、と思った。
らしくもなく、した約束だった。
南の魔法使いを辞めて、オズの城へと連れて行かれることになったちっちゃな魔法使い。
「泣くなよ」
「……ブラッドリーさん…」
フィガロが死ぬ前にオズに言ったという。
ミチルを頼むと、南の魔法使いを殺させる子にしないでほしいと。
馬鹿だと思う。
愛が何か解らないとか言ってた男は結局、愛を抱えたまま死んでいった。
でも、馬鹿なのは自分もか。
大切にしていたつもりだった。
それは恋とか、愛とかそういうものではないけれども、家族のような気安さがあった。
亡くなった兄や姉をネロに重ねていなかった、といえばきっと嘘になる。
自分は1人で生きられない性質なのだ、と思い知らされた。
孤独が嫌いなわけじゃない。
でも、孤独が好きなわけでもなかった。
ミチルに刑期が終わったら、迎えに行くと言ったのも、抱きしめてやったのも、同情だったのか、愛情だったのか解らない。
けれど、あの真っ直ぐな目は好きだった。
それだけは確かだった。
いつかオーエンが言っていた。
お前は間違えると。
確かにそうだ。
これがその末路だ。
「……東のちっちゃいのの為に生きるってことはしねえのかよ」
「……」
殺してくれというネロに微かに東のちっちゃいのの気配が感じた。
2人が恋人関係だったとは思わない。
聞いた事もなかった。
それでも、シノがネロのことが好きなのは知っていた。
自分と同じように、生きろと必死になって生かそうとしているのも。
「なぁ、ブラッド」
「なんだよ」
「シノのこと、頼んでもいいか」
「……嫌だね」
「……」
「……」
「……ちっ」
死ぬな、とは言えなかった。
殺さない、とも。
そうすればこいつはこいつじゃなくなっちまう。
ネロの事が好きだった。
相棒だったのだ、大切だった。
こいつに全部をやってもいいと思った。
でも、間違えて、間違えて、俺達はすれ違い続けた。
親友にも、家族にも、相棒にもなれなかった。
「ミチルに言っておいてだけはやる」
「ああ」
「……」
「……ミチルを幸せにしてやれよ」
「……東のちっこいのを幸せに出来なかったお前に言われたくねえよ」
それでも、自分はミチルの手を掴んだ。
お前だって、本当は東のちっこいのの手を握りたかったんだろう。
握れば良かったのに。
一緒に生きたいと言えなかった馬鹿な男。
東のちっこいの、本当にかわいそうなヤツだよ。
こんな男に惚れて。
好きになんてやりたくない男、なのに。それなのに、
「あばよ」
「……」
惹かれずにいられないのが悔しかった。
「……よぉ」
「ブラッドリー」
正直、殺されるだろうな、と思った相手は意外にも穏やかな顔で俺を見ていた。
「久しぶりだな」
「……あんた、こんなところにいたらヒースに殺されるぞ」
「……」
お前じゃなくて、東の坊ちゃんかよ、と心の中で突っ込んだ。
それと同時に驚いた。
東のちっこいのの腕の中に、赤ん坊がいたからだ。
「そいつは……」
「……見るか?」
フフンと、自慢げにシノがブラッドリーに近づける。
「……」
薄い空色の髪の毛に、黄金と深紅の瞳。
それが誰の子供かなんて、聞くまでもなかった。
「……ネロ」
「あんたの目から見ても父親に似てるか」
「……」
俺をじっと見たかというと、それからキャッキャと笑う。
その顔はネロなのに、表情はまるで東のちっこいのに似てた。
「ミチルは?」
「あ?」
「オズの城から連れ出したんだろう?どこにいる?」
「ああ……先に行ってるからなって言ったからそのうち来るだろ」
「そうか」
そう笑うシノは本当に俺のことを一切恨んでる様子はなかった。
まるで昨日会ったばかりの戦友のように接する。
「……東のちっこいの」
「なんだ?」
子供から視線を俺に移した。
その目に敵意は本当になかった。
「テメエ、俺のことを恨んじゃいねえのか」
言わなきゃいいのに、つい聞いてしまった。
すると、東のちっこいのはきょとんとした顔をして、それから元の顔になった。
「考えた事もなかった」
「……は?」
「……」
それから東のちっこいのは悲しそうに笑った。
「だって、アンタも同じだろう」
「……」
「アンタだって、ネロを殺したくなかっただろう」
「……」
その言葉にハッとした。
それを言ったのは2人目だ。
1人はミチルで、2人目はこいつだ。
「見れば解る」
「……」
「アンタは、ネロの自死に付き合わされただけだ」
「……」
んなことねえ。
盗賊団のボスとしてやっただけだ、と言えば良かった。
でも、そんなこと、きっと目の前のシノには解っていた。嘘だと。
「あいつは、初めて会った時から生きづらそうにしてた。死にたがってた」
「……」
「一緒に生きて欲しかったけど、俺には無理だった。――――殺してやることも」
「……東のちっこいの」
「ありがとう、ブラッドリー」
「……」
「悪かったな、アイツに付き合わせて」
ネロ。
お前はなんで死にたがったんだ。
東のちっこいのには、東の坊ちゃんや、呪い屋がいるから大丈夫だって思ったんだろうが、お前の事をこいつはちゃんと見抜いてたぞ。
お前の事を、こいつはちゃんと――――――
そこまで思って、
「そいつの名は?」
ネロが出来なかったことをやってやろうと思った。
そしてあの世に行った時に言ってやろう。
東のちっこいのが生んだお前の子に、祝福してやったと。
「オムニス」
東のちっこいのが大切そうに子供を抱きしめた。
「オムニス・シャーウッド」
それはネロが棄てた種を拾い上げて、シノが育てた花だった。
「……祝福してやってもいいか」
「ああ―――内緒だぞ、まだヒースにも会わせてないんだ」
どうか、どうか三部でネロが生きようって思ってくれる事を願っています。その前に三部マダー?という感じですが……