※注意 シノ・ヒースクリフ・アーサー・クロエ・ルチル・ミチル・オズが女体化してます。
そして、あの日。
<大いなる厄災>の敗戦で、ファウストは死にかけた。
南の魔法使いたちも、東の魔女も、あのクソ男も、西の魔法使い2人も、中央の魔女姉妹も、半数が亡くなった。
「ファウスト先生!!」
この子も連れて行かれてもいけないと思った。
そんなことになれば、ファウストはこれから何の為に生きたら良いのか解らない。
それくらいの気持ちだった。
ヒースクリフを守って死ねるのなら、この400年にも意味があると思えた。
きっと交わした言葉は少ないけれど、それでも、ヒースクリフは、ファウストにとって――――――400年ぶりに会った、作ってしまった『大事な人』だったのだ。
ようやく死ねる、と思いきや、ファウストは生き長らえた。
それどころか、東の魔法使いの先生役なんて役目を与えられ、ヒースクリフと彼女の幼馴染みのシノの2人を主に教えている―――筈だった。
筈、というのは、そうではないからだ。
本来なら、教える必要のない目の前の男、ネロ・ターナーにため息を吐く。
以前なら、同じように補習組だったシノは一抜けして、今では予習どころか、解らないところ、応用があればファウストのところに聞きに来るようになったため結局赤点を取るのがネロだけになった。
全員の食事を作ったり、他にも色々器用で子供好きな彼はかり出される事が多いのでまぁしょうがないか、とも思うのだが、そうなるとヒースクリフやシノに対する示しが付かない。
そんなわけでファウストは仕方なしに補習をすることにした。
そして、補習が終わり、「お礼に酒でも奢るよ」とシャイロックの酒場に2人で向かってるところだった。
「……」
だが、入ろうとした時、西と北の魔法使いしかいない事に気付いた。
「……先生」
「ああ」
互いに目を合わせて『帰ろう』『どちらかの部屋で飲もう』と気持ちが通じ合った。
さぁ、帰るか、と踵を返そうとした時、
「ファウスト様……ネロ」
「あれ、どうしたんだ?」
「レノックス、カイン」
「羊飼いくんと騎士さん」
「なんだなんだ?」
「いや、えっと」
そうこうしてる間にファウストは腕を掴まれてカインに引きずられる。
「こうして会えたんだ、一緒に飲もうじゃないか!」
「いや、僕たちは……」
「先生――――」
「……ネロ、一緒に飲もう」
「あ……はい」
ネロの叫びむなしく、レノックスに誘われて2人はトボトボと中へと入る。
シャイロックは気にせずに「おや、いらっしゃいませ」といつものように迎えてくれる。
「やぁ、ファウスト、ネロ、カイン、レノックス」
「よぉ、ラスティカ!」
東の魔法使いにこの陽気な空気は合わない、合わなすぎると想いながらも端に座ってちびちび飲もう、そう思っていた時だった。
「皆さんは誰が一番魔法舎の中で人気だと思われますか?」
「は?」
なんだか意味のわからない事を聞かれた。
「なんだ、それは」
つい口に出してしまい、ファウストはしまった、と思った。
これでは自分から巻き込まれたも同然ではないか、と
「あのね、あのね!西の国で賢者の魔法使い、魔女ランキング部門があるよ!」
「ナニソレ」
「賢者の魔法使いの中でどの魔女が一番好きかってランキング!ちなみにオズは一位!」
「そりゃそうだろうね」
「でも二位以下は接戦!誰が二位になるか魔法舎の中での統計をとりたい!」
「悪趣味……」
キラキラとした目で言うムルにシャイロックはため息を吐く。
「そんなの決まっています」
「おや、ミスラは誰だと思います?」
「ルチルかミチルでしょう」
「出た……」
「お前、チレッタの娘だからって2人の事可愛いと思ってるのかよ」
「いいえ、可愛いとかそういうのではなく当たり前じゃないです?少なくとも魔法舎の中では強いでしょ」
ミスラの発言はいつも通りだ。
何分、弱い2人を自分の次に強いと言ってるくらいなのだ。これで身内贔屓がない、と自覚がないところが恐ろしい男である。
「僕はクロエが一番可愛いと思うんだけど」
「お前にとってはね。でもまぁ、他の魔女よりはマシなほうじゃないの?中央のお姫様も負けてはいないと思うけど」
「お前……人の主君を値踏みするな!」
「騎士様はいつでもお姫様が一番だもんね?じゃあ、お姫様以外は可愛くないんだ?」
「そうは言って無いだろ!」
「ふーん……じゃあ、アーサーが一番じゃないんだ?」
「……う」
「アーサーが一番じゃないのに騎士だとか言ってるんだ?」
「そ、それは……」
そう言って、困惑するカインにオーエンは嬉しそうに唇を歪める。
しかし、そんなカインの状況を知ってか知らずか口を挟める魔法使いがいた。
「オーエンもクロエが可愛いと思うんだね!」
「そうは言って無いよ、まだマシってだけ」
「ふふ……ブラッドリーは?」
「あ?」
「魔法舎だと誰が一番美人だと思う?」
「あん?」
クロエが褒められて気分がいいのか嬉しそうにしてラスティカはブラッドリーに尋ねる。
適当に答えるんだろうか、と思っていると北の魔法使いにしては話が通じる方である彼は少しだけ考えて口を出した。
「まぁ、オズ以外はみんなお子ちゃまだけどもよ」
「皆さん、まだ生まれたてですから」
「いい女になるって意味じゃ南のちっこいのか?」
「……ミチル、か?」
意外な人選だったのか、レノックスが驚いたように声を出した。
「あいつはいい目をしてる。甘ったれなところがあるが北に連れて行けばいい感じに成長すると思うぜ」
「へぇ……」
「どっかの南の優しいお医者さんの元にいるよりはいい女に育つんじゃねえの?」
「やだなぁ、北の獄中犯よりはずっと南にいるほうがミチルの為になると思うけどね?」
「……ふっ」
「はは」
「うーん、意外!一番小さいミチルをブラッドリーは選ぶんだ?」
「は?あそこまで小さければ年齢なんざ1、2歳違うくらい大したことじゃねえだろうが」
「まぁ、確かに私達ほどになると大して変わらなく感じますからね」
「あとは、そうだなぁ中央の姫さんもいいと思うけど、東のちっこいのだな」
「……っ」
「シノ?」
突然、自分の生徒の名前が出て、ついファウストも反応してしまった。
ネロなんて動揺して飲んでいた酒をこぼしている、と思っている時も、ブラッドリーの評論は止まらない。
「あいつは結構話が解るしな、今は乳臭いガキだけども、あと数百年経過したらいい女になってると思うぜ。好戦的なのもいいし、それで用心深いのもいい。あの髪色は北の大地だと映えるしな」
「……」
「まぁ、胸がねえのだけ玉に傷だけどな」
「なっ……」
人の生徒をそんな風に見るな!と言いたいのに純粋なファウストは驚きの余り何も言えなかった。
「……東だったら、ヒースクリフのほうがよくない?」
「東の嬢ちゃん?」
「うん、脅えたり、すぐに落ち込んだりするところがいい。それでいて、アイツ、いざって時は大胆になるじゃない。まぁ一緒にいて飽きないよ」
「俺もシノとヒースクリフなら、ヒースクリフの方だなぁ、美人だし、スタイルいいよね」
「……」
フィガロ様、あなたまで人の生徒をそんな目で見ていたのですか、とファウストは頭の中で電撃が駆け抜ける。
「ミスラ、お前はどっちだよ」
「何が?」
「シノとヒースクリフ」
「どっちでもいいです、俺より遥かに弱いので」
「お前、話聞いてねえな!」
「まぁ、どちらかというとシノですね。根性だけはありますし、考えた修行を必ずやり遂げてくれるので」
「あー……そういえば、たまに修行つけてやってるんだっけ」
「でも、あの子、滅茶苦茶小さくないです?特に胸が小さいですよ、えぐれてます」
「いや、えぐれてねえよ!?」
「そうですか?チレッタに比べてかなり小さいです、時折大丈夫かなって思います」
「……」
ファウストはもうどうしたらいいのか解らなくなった。
解るのは間違えなく自分が怒っているということ。
ヒースクリフのことも、シノのこともそんな風な目で見て欲しくなかった。
ファウストは怒りのあまり、口を開こうとすると、
「シノは胸がなくても可愛いだろうが!」
「は?」
それよりも先に大声を出した男の声にファウストの怒りが飛んでいく。
「……ネロ?」
ブラッドリーの声で、ネロがハッとして自分の口元を抑える。
「悪い、シャイロック。大声出して」
「いいえ、お気になさらずに」
「……俺、悪いからちょっと部屋に戻るわ」
「ネロ!」
ファウストは慌ててネロを追いかける。
きっと優しいネロのことだから、シノとヒースクリフがそんな性的な目で見られて怒ってくれたんだろうと思うとファウストは有り難かった。
「……先生」
「さっきはありがとう。助かった」
「あー……」
「気分を害したな、飲み直そう」
「……うん」
歯切れの悪いネロの回答にファウストは特に気にすることはなかった。
優しいからまだ気にしてるのだろう、というくらいで。
「……しかし、なんていうか、どっちにしろなんか微妙な気持ちになりそう」
「なにが?」
「さっきのランキングとかいうの」
「ああ……」
西の魔法使いのやることだ、と気にしないことも出来る。
けれど、きっとヒースクリフとシノが上位にいても、下位にいても自分達は気にしそうだ。
でも、あの2人を性的な目で見られるのはファウストは嫌だった。
だって、可愛い生徒だ。
シノが東の王弟殿下の嫁にいくかもしれないと思った時も一騒動だった。
これが次また起きたり、ヒースクリフがお嫁に行きます!なんてなったら大変だと思う。
それに、あの子達がキラキラとした目で自分を見てくれるのは本当に、本当に少しだけ、好きだから、とファウストは思う。
だから守ってやりたいと思った。
それ以外に他意はなかった。
2026.1.12執筆
このネロはシノ抱いてるんだよな……と思いながら読んで頂くと、ネロが可哀相で二重で味がしていいかなと思ってます。