「……っ」
ミスラでも勝てない人造魔法使い。
シノは、かつてファウストに助けられた時のことを思いだした。
あの時はファウストを置いて逃げたんだったな、と思い出す。
「っ……東のちっちゃいの!ふざけんじゃねえぞ……」
「……っ」
ずっと、ヒースクリフを庇って死ぬのだと思っていた。
ファウストに出会って、その考えは変わった。
ヒースクリフを守るという気持ちは変わらないが、自分の命に意味があるのだと知った。
自分を大切にしよう、と決めた。
神様なんかじゃなく、ヒースクリフとファウストに誓った。
その結末がこれか。
「……」
単なる偵察の筈だった。
賢者、アーサーにカイン、ミチル、ブラッドリー、レノックス。
本当の本当に、簡単な仕事のはず、だった。
依頼はすぐに終わって、帰るか、という時にアレは現れた。
オズやミスラがいれば話は別だったのかもしれない。
圧倒的に戦力が足りてなかった。
「アーサー!カイン!賢者を連れて逃げろ!」
「シノ!」
「俺達は足止めする!追いつくからさっさと行ってろ!」
「すぐに……追いつきます……」
ブラッドリーとレノックスの言葉に、泣きそうな賢者を連れて2人が離脱した。
この時の判断は間違ってなかったと言える。
問題はミチルも離脱させなかったことだろう。
「スキンティッラ!」
閃光が人造魔法使い達を射貫くが、それでも足りない。
当たり前だ、ミスラが苦戦するような相手なのだ。
それも数体いるのであれば勝つことは難しい。
カインとアーサーが援軍を呼んでくれることを待つしかない。
前線で戦ってくれるレノックスも限界だ。
その時だった。
人造魔法使いが、ミチルを狙ったのは、
「っ……スキンティッラ!」
ミチルが魔法を唱える。
でも、聞かない。
「アドノポテンスム!」
ブラッドリーが足止めをするものの、効かない。
「っち……!」
「……ミチル、ブラッドリー!」
「……っ」
「ま――――――」
レノックスの声に、シノも呪文を唱えようとする。
でも、
でも、足りない。
時間が。
「……っ」
なら、どうしたらいい。
どうしたら、
「……」
”そんなこと、はじめから決まっていた。”
ヒースクリフは怒るだろうか。
でも、仕方ない。
ブラッドリーが死んだら、ネロが泣くだろ?
レノックスが死んだら、ファウストが泣く。
ミチルは―――――俺より若いんだ。生きるべきだ。
俺は、ヒースの幸せだけ考えてたら良かったのに、でも、今はもう、
「……っ」
ブラッドリーは来るであろう衝撃に備えてミチルを抱え込んだ。
けれど、来たのは……
「……っ、シノさん!」
自分よりもずっと若い魔法使いの血だった。
「…」
それに対して、ブラッドリーはシノに庇われたのだ、と気付いた。
「っ……東のちっちゃいの!ふざけんじゃねえぞ……」
「……ぶらっ、どりー……」
「おい!ミチル!回復魔法だ!」
「シノ!」
戦いながらも、レノックスはシノの状態を見る。
先程から猛攻撃を食らっていた体は傷だらけで最後の一撃はに耐えきれなかった。
もしかするとフィガロほどの回復魔法でなければシノは……
そこまで考えて、ファウストはここにいない主君に申し訳がなかった。
「……こしょう、あるんだろ…?」
「ああ、でも……」
連れて行けるのは左手と右手の相手だけ。
4人は連れて行けない。
「おいていけ…」
「っ!」
「っ……馬鹿言ってるんじゃねえ!!」
「……たのむ……みち……ぐほっ」
ミチルを守ってくれ、と言おうとすると血が溢れ出る。
ダメだ、自分はもう死ぬ。
ダメだと、解っていた。
ヒースクリフを守って死ぬと思っていた。
でも、そうじゃなかった。
ヒースクリフは許してくれるだろうか。
優しいからあいつは許してくれるだろう。
ファウストも、ネロも
「おれの、いしを……ひーすと、ふぁうすとと、ねろに……」
「っ……」
ミチルの目に涙が浮かぶ。
出来れば、アーサーとミチルにもやってほしい。
そう言ったが、声には出来なかった。
でも、ブラッドリーは解ってくれた気がした。
ああ、もうダメだ。
マナ石は一つだけじゃないと聞いた。
最初は一つだけだと思ってたからヒースクリフに、と思った。
でも、今は――――――
「……」
ヒースの為に生きなきゃいけなかった。
でも、大丈夫だろう、ヒースクリフ・ブランシェットなら。ヒースクリフ万歳。
ファウストは笑ってくれるかな。
レノックスを守ってくれてありがとうって言ってくれるだろうか。
言わないだろな、きっと怒りながら泣くに違いない。
ネロは、
ネロは……どうだろう。
でもさ、あんたの好きな奴を守ったんだぜ。ざまあみろ。
人に長生きしろって言っておいて、自分は死のうとしてるから少しは解るだろ。
オレの石を見て、少しは考えろ。
お前がしようとしてたことはこういうことなんだって。
ミチルの手を握って笑った。
オレの石を、意思をを引き継いで――――――どうか大いなる厄災に勝ってくれ。
それを最後に、シノは石になった。
「東のちっちゃいのが石になった。」
カインとアーサーが賢者と共に帰ってきて、助けを求めようとした時、
ブラッドリーがミチルとレノックスの手を握って魔法舎に戻って着た。
ああ、良かった。なんて思わなければ良かった。
「……シノは…?」
ファウストの声に、やってきた全員が凍り付いた。
それに対して痛々しく口を開こうとするミチルとレノックスに対して、ブラッドリーが言い放った。
「……は?」
「ボクと、ボクとブラッドリーさんを庇って、シノさんは……」
泣くミチルに対して、ネロはブラッドリーにお前が着いていながら、と言う事も、どうして、守ってくれなかったんだとも言えなかった。
「……すいません……すいません、ファウスト様……」
心の底から申し訳なさそうにするレノックスを責める事も。
「東の坊ちゃん」
「……」
ブラッドリーは持っていたマナ石をヒースクリフの前に置いた。
「……っ」
その美しい石にヒースクリフは嫌悪感を露わにした。
「東のちっちゃいのだ」
「っ……!」
口元を抑え、ヒースクリフは現実を見ないようにする。
「お前と、呪い屋、…飯屋に食べて欲しいってさ」
「え……」
「ブラッド、何言ってるんだよ」
「死にかけのあいつが言ったんだ、嘘なんかつかねえよ」
「……」
シノがヒースクリフに石を食べてほしいと言っていたのは知っている。実際に聞いた。
「それから、中央の王子様と南のちっこいのにも」
「私に?」
「……っ!」
その言葉にミチルとアーサーが反応する。
「……駄賃として、オレ様も貰って良いか?」
「……」
その言葉が形見分けだとはわかってる。
それでも、ヒースクリフは首を縦に振れなかった。
必死で横にふるヒースクリフにブラッドリーは何も言わなかった。
ただ、
「<大いなる厄災>に勝ってほしいってよ」
背を向けて彼はそういうだけだった。
そして、ヒースクリフは、
「っ……、ぁ、あぁ……」
「ヒース…!」
「……っ」
膝が折れ、石を手にし床に体を伏せた。
クロエとルチルに背を撫でられながら声にならなずに泣いていた。
それに対してファウストもネロも何も言えなかった。
あるのは、シノを行かせた後悔だけだった。
「……」
マナ石は綺麗なものだと思っていた。
自分がこれになって、大切な人の一部になれるならどんなにいいことだろうと願っていた。
でも、
「……シノ…」
言ったじゃ無いか。
長生きして、傍にいろと。自分の成長を見てろと。
結局、シノは自分よりもずっと背が低いまま亡くなった。
レノックスに背中を支えられながらファウストは自分の部屋に戻った。
ネロも、シノの石を手に自身の部屋へと戻った。
「……っ」
ノックが鳴る。
なんだろうかと思ったら、「よぉ」とブラッドりーが顔を出す。
「ブラッド」
「……辛気くせえ面しやがって」
「……」
そういうブラッドリーにネロは何も言えなかった。
恨み言を言えば良かったのか、それとも生きてくれた事に感謝すればよかったのか。
解らない。
シノかブラッドリーかなんて、ネロには選べるわけがなかった。
自分と相手なら、間違えなく相手を選べるのに。
「なぁ、ブラッド」
「なんだよ」
「俺を石にしてくれ」
ただ、解るのはシノが死んだということ。
何も考えずに咄嗟に口に出した言葉に、ブラッドの目に怒気が含んで頬が痛い程殴られた。
「……」
「……東のちっちゃいのがしたことはてめえがしようとしたことだろ」
「……は?」
その言葉に、ネロは理解出来ずにブラッドリーを見つめた。
「あいつは、お前が死にたがってるのを知ってた」
「……」
「きっと、ざまあみろって思ってるぜ」
「……」
その言葉に、シノの悪戯な顔を思い出す。
容易に解るその顔にネロはまた泣きたくなった。
「……っ」
「守ってやれよ、あいつの代わりに東の坊ちゃんを」
「……わかった」
「……」
「<大いなる厄災>までは、あいつの代わりにヒースを守るよ、だけど……」
「……」
「もし、終わったら、俺を石にしてくれ」
「……」
死ぬのは恐くなかった。
そうすることが正しいと思っていたから。
自分の命にも意味があると思えたから。
でも、今日、もう一つ意味が増えた。
もしも、石になったその時は――――――
『ネロ!』
地獄できっと、シノに会える。
ヒースクリフがどこで死んでもシノは約束を破ったと思うけど、ヒースクリフはシノが何かを成し遂げて亡くなった時には約束を破ってないとおもうんじゃないかな、と思っています。勝手に
ネロシノ連作三作目を書こうと思ったんですがどうしても死にネタ書きたくて書いてしまいました。