深紅の双眸

「おかえりなさい、ネロ!オズ!」
 久しぶりに帰ってくると嬉しそうに寄ってくるリケの頭を撫でながら「……ただいま」と口にした。
「……」
「おかえり、ネロ」
「あー……ただいま、先生」
「ネロ、聞いたぞ!俺たちの代わりに詐欺師をオズと懲らしめてくれたって!」
「ああ、是非見たかった。きっとオズ様とネロなら素晴らしかったんだろう」
 そう笑うカインとアーサーにネロは笑みを浮かべていた。
「兄様から聞きました、ネロさんとオズ様で兄弟をしたんですよね!ボクと兄様みたいに仲良しでしたか?」
「……仲良し…?」
「そういえば言ってたっけ。ルチルが教えてくれたよね。ってなるとネロが兄でオズが弟?」
「え?」
「……フィガロ様、ネロが弟でオズ様が兄でしたよ」
「え?」
「……なんだ、フィガロ」
「いや……お前に兄は無理でしょ」
「……」
「オズ様の活躍も是非聞きたいです!ネロも!」
「……っ」
「そうだな!オズ、聞かせてくれよ!」
「そうですね、オズ。久しぶりにご飯を食べながら聞かせて下さい」
「……」
「……」
「……」
「……あの、聞いているのですか、オズ」
「……ああ」
「それは聞いている、ということですか?」
「いや……」
「オズ様は話を聞かせてくれる、ということだよ、リケ」
「そうなのですね、にしても相変わらず返事が遅いです。これじゃあ、ネロやシャイロック、ルチルも大変だったでしょう」
 そう頬を膨らませるリケを見ながら、ネロは後ろ手で頭を掻いた。
「兄様も、一緒に行きましょう!」
「うん、久しぶりにみんなで過ごせるの嬉しいな」
「……ああ」
「そうだね、行こうか」
 オズは中央の若い魔法使いたちに、ルチルは南の魔法使いたちに、
 シャイロックは――――――  


「シャイロック!」
「クロエ」
「やっと帰ってきた!心配してたんだよ、ネロも!」
「あ、ああ…」
「それからルチルが一回帰ってきた時に見たんだけど、オズ様の衣装凄い良かった!」
「お、おお…」
「く、クロエ…」
「ルチルから聞いたんだけど、ネロの衣装はオズ様とお揃いで対になってたんでしょ?後で見せて貰える?」
「お、おお……」
 キラキラと勢いに任せて走ってきたクロエはそのままマシンガントークを話す。
「クロエ」
 一度、ヒースクリフが控えめに制するが止まらずシャイロックの言葉にクロエはやっと止まった。
「……ふふ、戻りました」
「……うん…ラスティカもムルも待ってるよ!」
 行こう、とシャイロックはクロエの手に引かれて去って行く。
 他の国の魔法使い達はまるで嵐のようだ、とネロは疲れた体が更に疲労するのを感じる。   


「ネロも、お疲れ様」
「……ああ」
「みんなで心配してたんだよ、シノも……」
 その言葉に、そういえばシノが静かだな、とネロは気付いた。
 顔をあげれば、シノは壁の花になっていた。
「シノ」
「……」
 名前を呼べば、シノはじっとネロを見ていた。
「……疲れている」
「そりゃそうだろ、シノ」
 当たり前の事を言うなよ、とヒースクリフは言うが、ネロだけは解った。
 シノは解るのだ。
 同じだから。
「……アンタ、やりたくない事をやった、って顔してる」
「っ……」
 その言葉に、ああこいつは解るのだ。
 こいつだけは、と思えてしまう。  


 ブラッドリーすら解らない。
 リケやヒースクリフ、ミチルなど可愛がってる子には、若い魔法使いには見えられない、
 そんな一面すら言い当てる。  


「そりゃあ、オズ様と兄弟役なんてやったら疲れるに決まってるよ……あっ」
「……まぁ、君も疲れているんだろう。カナリアがご飯を作ってくれてる、それを食べて」
「……持って言ってやるから部屋で休め」
「……」
「シノ!」
「アンタは……もう少し自分に優しくしたほうがいい」
「……」
 その言葉に、恐くもあったし、嬉しくもあった。
 惜しくはシノが17歳で、自分が600歳だった事だろうか。
 もっと早くに出逢えたら、なんてそんな事は無理すぎる年齢差だ。  


 この、深紅の双眸にはいつも見透かされる。
 オズが言った似つかない『ネロの性』とも違う。
 この子だけは解る。  傷ついて傷ついて、人に寄り添いたくても、それが無理で、自分の価値がないと解っていても大切にされたくて、でも、誰かを傷つけてしまう、そんな自分が。 
 薄汚れてるからいいと割り切ればいいのに、汚れを落としたくて、でもとれなくて、汚れはどんどん酷くなっていく。
 

「まぁ、シノの言葉に甘えなさい」
「……ああ、そうするよ」
「……」


 ネロはファウストとシノの言葉に甘えて、自分の部屋へと向かい、ベッドへ腰掛ける。
 オズは言った。
 それはお前には合わないと、辞めろと。
 でも、そうじゃないと生きて行けなかった。
 人と寄り添おうと、生きて行けると思ったら、何度も裏切られた。
 努力しても無駄だった。
 でも、ファウストのように人から離れて生きていく事も出来なくて。
 ヒースクリフのように周囲から愛される事も出来なくて。
 結局自分を隠して、人を大切にして、でも、いつかバレてしまうのが恐い。嫌われるのが、軽蔑されるのが恐かった。  


 でも、  


「……」  


 足音が聞こえる。
 シノの足音だ、と解った。
 盗賊時代の頃は仲間の足音はすぐに解った。
 足を洗って、こんな特技、もう使えないと思ったのに、今ではきっと賢者や、魔法使い、カナリヤやクックロビンの足音も解るようになってしまった。そんな自分の駄目なところがますます嫌だ。


「ネロ」  


 コンコンとシノがノックをする。


「……開いてるよ」


 シノが入ってきたら、甘えてしまいそうだと思った。
 だって、シノは自分がろくでなしだと知っていても、慕ってくれるから。
 好きだと、お気に入りと言ってくれるから。


 
 全部喋ってしまいそうだと思う。
 人を騙したことも、詐欺師を拷問しようとして止められたことも、オズに言われたことも。
 オズとは似てる筈なのに、まったく違う、この深紅の双眸に、漆黒の髪の毛をした若い魔法使いに。
 だって、同じ色なのに、全然違っていて、緊張や恐怖じゃなく、あの目は優しさや安心を与えてくれるから。  


 入ってきたその気配の愛しさに、ネロは腰を上げ、出迎えた。



 

ソナチネイベント滅茶苦茶良かったですね~
ただ、オズ様の話したネロについては、オズ様がこう思う、ってだけでネロ自身は別に真っ当になろうと努力したけど、それを周囲が許さなかったから、オズ様の語るネロ評は少しだけズレてる、という意見を見て、ハッとしました
ネロシノ民だからなのもあるけど、今イベでマジのマジでネロのこと根本で解るのシノしかいないじゃん…と思いつつ
まぁ、ネロはシノのこと全然解ってないんだけど(多分ファウスト先生の方が解ってる)
とか思うと、シノちゃん、こんな男辞めろ!ファウスト先生かアーサー様のがいいだろ!と思わないでもないんですが……
ネロ推しの目で見るとシノちゃん、本当にシノちゃんしか無理だからネロの事頼むね…という気持ちにもなってしまい…

元々は、拷問シーン、リケやヒースには絶対にネロは見せられないけど、(なんとなく)シノには見せられるんだろうな…と思ったところでこの話を書きたいなと思いました。
というか、あのシーン、喋らないから解らないんだけどルチルいるんです?ルチ兄様いるよね?ルチルはセーフなの?
(ネロが賢者とみんなは外に出てて、発言とオズ様のみんなでご飯食べよう発言からして)
オズ様には口止めしてたけど、ルチ兄様から、ミチルとリケに伝わったら即アウトだと思うんだけどそれはいいっすか、ネロさん。
マジで貴方、隠すの辞めた方がいいよ、向いてなさ過ぎるよ。ルチル兄様は優しいから言わないよという気持ちと
南の魔法使いのラインは割とおおらかすぎて、最近西の魔法使いよりもやべーよと思えてきたのでアッサリ話す気もしないでもない。

2026.1.13執筆