熱を伝えて



*本編から100年後設定

 シノは東の国の魔法使いである。
 中央の国のアーサーと同じく無鉄砲なところもあるが、東の国らしく慎重深い一面も持ち合わせており、意外なことに読書を嗜むこともあった。
 いつもは外で駆け回っているシノだが、雨の日くらいは魔法舎の中で過ごす。
 シャーウッドの森であれば別だが、魔法舎の森は別にシノの管轄というわけではないし、ただなんとなく整備しているだけに過ぎない。
 勿論、外が好きなシノは晴れが好きだが、雨を見たところで、晴れだったらいいとか、雨が忌々しいとは思うことはない。
 ヒースクリフが好きな天気が雨だからだ。
 雨の音が好きなヒースクリフが嬉しいならそれでいい。
 森よりも、晴れよりも、シノはヒースクリフが好きだから。


「……」  とはいえ、そうなると一日が暇になる。
 ファウストに教えを乞うてもいいのだが、休みの日くらい彼も休みたいだろう、と思い、なんの気なしにシノは図書館へと向かった。
「……よっと」
 しかし、この魔法舎にも100年もいるとさすがにたまにしか来ないとはいえほとんどの本は読んでいる。
 アーサーと読んだ攻撃魔法の本、ミチルと勉強した回復魔法、ブラッドリーやファウストを元に描かれた本、オズやフィガロのしたという世界征服。
 何か読んだことはない本はないものか、と思っていると、
「あ」
 読んだことのない本、というか読めない文字があった。
 賢者の書だろうか、とシノは手を伸ばし本を取った。
「……賢者の書か?」
 ペラペラと捲ってみるが、ところどころ読めないわけではないが、大体がわからない。
「……」
 なんだか悔しくてシノが口を一文字にしていると、そんなシノをのぞき込む人影が見えた
「古文書じゃねえか」
「ブラッドリー」
「こいつはお前さんには読める代物じゃねえな」
「……読めるのか」
「あ?」
 シノの言葉に一瞬顔を顰めて、それから得意げに笑った。
「当たり前だろ?オレ様を誰だと思ってやがる」
「この本はなんの本なんだ」
「あー……竜を殺すための手段みたいなもんだな」
「竜?」
「でも殺すだけじゃねえ、出会い方やら、逆にどう避けたらいいのか……まぁ、今よりも昔はよく会う事が出来たから生きるための手段だな」
「……」
 ブラッドリーの説明にシノは心が躍った。
 読みたい。
 しかし、シノは読めない。
「……ブラッドリー」
「あ?」
「読んでくれ」
「は?やだよ」
「……」
 頼むと当然断られた。
 とはいえ、ブラッドリー以外の年上の魔法使いといえば、
「……」
 ホワイト、スノウ、フィガロ、オズ、ミスラ、シャイロック、ムル、オーエン……
 駄目だ、一番ブラッドリーが話を聞いてくれる。
 そう確信して、シノは奥の手を使うことにした。
「フライドチキン」
「あ?」
「ネロの次回のフライドチキンの時、半分やる」
「……」
「……」
「東のちっこいの、てめえは話が早くていいぜ」
「……」
「いいぜ、読んでやる。代わりにーーー一度で覚えろよ」
「言われなくても」
「それじゃあ、談話室に行くとするか」
「ああ」
 図書館では話す事はあまり適さないため、ブラッドリーは本を片手にシノと共に談話室へと向かった。


 後に、それがどうなるのかなど知らずに。



「ネロ、うまく出来ました!」
「おー、上手上手」
「ふふ、早速みんなに渡したいです!」
 談話室に行きましょう!とネロと一緒におやつを手にリケは談話室へと駆けていく。
 きっと、この時間ならきっとみんな談話室にいるだろう、とネロはリケの背中を見ながら後を追う。
 一体誰がいるだろう。
 そう思って、扉を開けるととんでもない光景が目に入ってきた。


「は?」


「あ、リケ、ネロさん!」
「ミチル……何をしてるんですか?」
 リケもその光景に驚き、声の温度が少しだけ下がった気がした。
「本を読んで貰ってる」
「いや……そうじゃなくて…」
 確かによく見ると三人が本を覗き込んでいるのはわかる。
 でも、どうして、シノがブラッドリーの脚の間に収まって、その上背中を、ブラッドリーの体に預けるようにしているのだろうか。
 そして、ミチルもまたシノに抱きしめられて膝の上に乗っていた。
「……」
「ブラッドリーのやつすごいんだぜ、古代語ってのペラペラ読めるんだ」
「東のちっこいのがこの本を読んでほしいって言うから読んでやってたら、南のちっこいのも知りたいっていうから二人に読んでやってたんだよ」
 のほほんと言うブラッドリーに自分がおかしいのか?とネロは一瞬思う。
 いや、そんなことない。リケも驚いていたし、と思っていたが、
「そうだったのですね、それで三人で本を読んでいたのですか」
 とリケはあっさり納得してしまった。
 ネロの味方は一瞬にして誰もいなくなった。


「……」


 いやいや、待て待て待て。
 シノ、お前って俺の恋人だよな?
 だって、シノから告白してきたんだし。
 いやまぁ、ヒースクリフはいいよ、幼馴染みだし、お前の大事な主人だもんな。
 まぁ、先生もいいよ、100歩譲って。そりゃ、お前の大好きな先生だもんな。
 でもさ、なんでブラッド?
 お前らそんな仲良かったっけ?いや、まぁ一緒にたまにつまみぐいするために組んだりするけどさ、でも、なんで俺以外の男の脚に挟まってるわけ?


「……」
 そんなこと思っていると、こっちを見たブラッドリーがにやりと笑った。
「おい、東のちっこいの」
「うん?」
「お前さん、もっと色々知りたいか?」
 ブラッドリーがシノの腰に回して小さな体を引き寄せる。
「うん?教えてくれるのか?」
「えっ、ボクも知りたいです!」
 強くなりたい組のおこちゃま二人がキラキラとした目でブラッドリーを見つめる。
「二人ともずるいです!僕も……あ、その前にお菓子を作ったんです!」
「リケが?」
「はい、ネロと作りました!」
「わぁ、凄いです!」
 キャッキャと笑うおこちゃまを尻目に「じゃあ、ここまでだな」とパタンと本を閉じてしまう。
「おい」
「この本なら、そこの飯屋も読めるから読んでもらえよ」
「そうなのか?」
「ああ」
 きょとんとした顔のシノの髪の毛を撫でてブラッドリーは「代金分は仕事したぞ」と言う。
「ああ、助かった」
 ミチルとシノが立ち上がり、ブラッドリーも重い腰を上げる。
 それから、ネロは耳打ちされると、「そんなんじゃねえ!」と言うしかなかった。
 楽しそうに背中を向けて、それから菓子を一つ食べていなくなる様子にネロは睨み付けて、恥ずかしさからその場にへたり込む。
「ネロ、どうかしたんですか?」
「いや……なんでもねえよ……」
 顔を手で覆うネロに首を傾げながらもリケはミチルに手を引かれて談話室を去って行く。
「リケ、みんなを呼んできましょう!」
「はい、それじゃあいってきます!」
 残ったのはネロとシノだけで、シノはとことことネロに近づく。  


「悪かった」


 そして、その様子を見て素直に謝った。
「へ?」
「ブラッドリーはあんたの相棒だもんな、」
「……は?」
 いや、まぁ、元だけど。
 そんなことよりも……
「ヤキモチ焼いたんだろ?安心しろ、取らないから」
「……」
 その言葉に、伝わってない!とネロは衝撃を受けた。
 そりゃ、100年前はブラッドリーに自分が頼み事されなくてレノックスに嫉妬したり、ファウストや賢者にモヤモヤした気持ちになったけれど、でも、今は――――
「あのさ……」
「うん?」
「そうじゃなくて、」
「そうじゃなくて?」
 シノが取られて嫉妬したんだけど、と言えばどうなるだろうか。
 驚くだろうか
 それともしかめ面されるだろうか。
 

 言いたくないのに、言わなきゃ伝わらない熱を教えようと口を開く。  


   自信家に見えて、自虐的な彼にどうか、伝わるように。



 

2026.1.16執筆
たまにはラブラブなネロシノを。100年経過してるので皆にさすがに色々バレてるし、各自の秘密も開示してる設定で書いてます。